
目次
はじめに
「キーン」「ジー」といった耳鳴りに悩まされたことはありませんか?
一時的なものなら気にならないかもしれませんが、長く続くとストレスや不眠の原因になることもあります。
実は、耳鳴りにはさまざまな原因があり、難聴が関わっている場合もあります。
そして、耳鳴りに正しく対処するには、まずは自身の症状がどういうものなのかを理解することが大切です。
この記事では、耳鳴りの主な原因、種類と対処法について詳しく解説します。
耳鳴りに悩んでいる、あるいはご家族や知人が耳鳴りで悩んでいるという方は、ぜひこの記事を読んでみてください。
1 耳鳴りの原因、もっとも多いのは難聴
耳鳴り (耳鳴症)とは、実際にはその音がしていないのにもかかわらず、耳の奥で「キーン」という音や「ジー」という音を感じる症状をいいます。
耳鳴りの原因として最も一般的なのは、実は「難聴」です。
耳鳴りの患者10人のうち実に9人には、難聴の症状もあると言われています。
「耳鳴りのせいで、人の声や物音が聞こえにくくなった?」と思いがちですが、耳鳴りがあるから難聴になる、というわけではありません。
その逆、「難聴が原因で耳鳴りが生じる」ことが多いのです。
耳鳴りは、下記の3種類の難聴で多く発生するといわれています。
- 加齢性難聴(老人性難聴):加齢による内耳の機能低下で、高い音の耳鳴りが起こりやすい。
- 騒音性難聴:大きな音の曝露(コンサート、工事現場など)による内耳障害で耳鳴りが生じる。
- 突発性難聴:突然の難聴とともに耳鳴りが生じることが多い。
難聴によって脳に入ってくる音が減少すると、脳がその不足を補おうとして音を作り出してしまいます。
これが耳鳴りとして感じられるようになります。
つまり耳鳴りは、脳が「音がない状態」に適応しようとした結果とも言えます。そのメカニズムは第3章で詳しく説明します。
2 その他の耳鳴りの原因
難聴以外にも、耳鳴りを引き起こす原因は多岐にわたります。
重大な病気が隠れている場合もあるため、耳鳴りが持続する場合は早めに医療機関を受診することが重要です。
① 疲労やストレス
過度の疲労やストレスは、自律神経のバランスを乱し、耳鳴りを引き起こすことがあります。
ストレスが続くと、脳が過敏になり、わずかな音でも耳鳴りとして感じやすくなります。
② 慢性的な首こりや肩こり、顎関節の機能障害
首や肩の筋肉の緊張、歯ぎしりや顎関節の不調も耳鳴りの原因となることがあります。
これらの症状は、耳周辺の血流を悪化させ、耳鳴りを引き起こす可能性があります。
③ 耳や脳、全身の病気
以下のような耳や脳・全身の病気も耳鳴りの原因となります。
- 耳垢栓塞(じこうせんそく):耳垢が詰まることで耳鳴りや難聴が起こることがある。
- メニエール病:めまいや難聴、耳鳴りを繰り返す病気。
- 中耳炎(急性・慢性):耳の炎症により耳鳴りや耳閉感が生じることがある。
- 聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫):聴神経にできる良性腫瘍で、片側の耳鳴りや難聴、めまいを引き起こす。
- 耳管開放症・耳管狭窄症:耳管の機能異常により耳鳴りや耳閉感が生じる。
- 脳腫瘍や脳梗塞:脳の異常が耳鳴りを引き起こすこともある。
- 頭部外傷:頭部のケガで内耳や聴覚神経が損傷され、耳鳴りが生じる場合がある。
- 高血圧・動脈硬化:血流異常による拍動性耳鳴り(「ドクドク」「ザーザー」)が起こることがある。
- 薬剤性耳鳴り:抗生物質(アミノグリコシド系)、利尿剤、抗がん剤などが原因となることがある。
◇耳鳴外来のご紹介
ご覧の通り、耳鳴りはさまざまな原因で起こります。
原因に応じた適切な対応・治療が必要ですので、耳鳴りが続く場合、必ず耳鼻咽喉科を受診してください。
一部の大きな病院では耳鳴りの専門的な治療を行う「耳鳴外来(じめいがいらい)」もあります。
「耳鳴外来」では、耳鳴りに特化した診療を行い、原因を特定して適切な治療や補聴器の使用を提案します。
ぜひ一度ご確認ください。
3 難聴で耳鳴りが起こるメカニズム
この章では、耳鳴りの中で最も多い「難聴に伴う耳鳴り」がなぜ起こるのかを説明します。
難聴によって耳鳴りが起こる原因は一言でいうと、耳鳴りは脳が失われた音を補おうとして起きる現象だからです。
耳鳴りは、聞こえの仕組みと密接に関係しています。
耳がとらえた音は、耳の中の様々なパーツを通して送られ、電気信号に変換されます。
その電気信号が聴神経を通じて最終的に脳に到達し、そこで初めて音として認識されます。
難聴があると音の情報が脳に届きにくくなります。すると脳は音をもっとよく聞き取ろうとして感度を上げます。
その状態が続くうちに、脳が本来ないはずの音を自ら作り出してしまい、耳鳴りとなると考えられています。
実際、耳鳴りの音色は、難聴で聞こえなくなった音と似ているという特徴があります。
例えば、高い周波数の音が聞こえなくなると、「キーン」や「シー」といった高い音の耳鳴りが生じる場合が多くみられます。
耳鳴りが起きるメカニズム
①耳のセンサーが壊れる
耳の中には音を感じるセンサーのような「内耳」がある。
内耳がなんらかの原因で音を感じ取れなくなり、特定の音が脳に伝わらなくなる。
②脳が「おかしい!」と反応
脳は「いつも聞こえていた音が聞こえない」状態を異常と判断。
聞こえないことを補うために感度を上げて電気信号を増幅させる。
この反応は音が鳴っていないときにも起こり、「音が鳴っている」と勘違いしてしまう。
③悪循環が始まる
最初は小さな耳鳴りでも、気にしすぎると脳がますます敏感になり、耳鳴りが大きく感じられるようになる。
ストレスや不安でさらに悪化することも。
出典:社会福祉法人済生会「原因を知ることが治療 知っておきたい耳鳴りのこと」を元に作成
耳鳴りは、脳が聞こえなくなった音の代わりにノイズを作ってしまう、「脳の勘違い」のようなものですね。
難聴による耳鳴りは難聴を適切に対処することで改善できる場合が多いので、一人で悩まず、まず専門医に相談しましょう。
原因が特定できたら、それに応じて適切な治療ができるはずです。
4 耳鳴りを治す方法
耳鳴りの診断・治療は医師が行います。原因を特定し、複数ある治療法の中から患者さんにとって最適なものを選んでくれます。
耳鳴りの治療は原因によって方法が異なりますが、大きく分けて2種類があります。
① 耳鳴りの原因を治す治療
耳鳴りの原因が特定の病気である場合、その病気を治療することが優先されます。
- 例えば、内耳のリンパ液がたまってむくむ「メニエール病」では、利尿薬や生活習慣の改善が行われます。病気を治すことで自然と耳鳴りが改善されることが多いです。
- 難聴による耳鳴りの場合は、原因となる難聴に対処すると、耳鳴りも軽くなったりなくなったりします。加齢性難聴なら、補聴器で低下した聴力を補うことで、脳が音の感度を上げなくてもよくなり、耳鳴りが改善することもあります。
② 耳鳴りによる苦痛や煩わしさを軽くする対症療法
耳鳴りの原因が特定できない場合や、慢性化している場合には、以下のような対症療法が行われます。
音響療法(TRT): 外部から音を入れることで、耳鳴りを目立たなくする方法。
耳鳴りは、ほかの音に紛れると、目立たず気にならなくなる傾向があります。
耳鳴りがあると、どうしてもその音が気になってしまうものですが、その注意を別の音に向けることで耳鳴りを気にならなくする音響療法(TRT)があります。
サウンドジェネレーターと呼ばれる器械や補聴器から、耳鳴りよりも小さな音(例えばザーというホワイトノイズ)を出し、その音を聞き続けるというものです。
認知行動療法:耳鳴りに対する心理的な反応を改善し、苦痛を軽減する方法。
薬物療法:抗不安薬や抗うつ薬を使用して、耳鳴りによるストレスを軽減します。
※耳鳴り治療、および補聴器搭載の耳鳴治療機能の使用に関しては、必ず耳鼻科医の診断が必要です。
5 補聴器による耳鳴り治療
補聴器は、難聴による耳鳴りの治療に有効な手段の一つ
難聴がある場合、補聴器が外部からの音を増幅し、脳への音の入力を回復させます。
脳が必死になって聞こうとしていた音が、補聴器から十分な音量で届くようになるのです。
これにより、脳が作り出すノイズ(耳鳴り)が抑制されて正常な状態に近づき、耳鳴りが改善します。
耳鳴治療機能搭載の補聴器は、耳鳴りを軽減するための機能を備えている
補聴器には、耳鳴治療機能が搭載されている器種があります。
この機能をオンにすると、補聴器は周りの音を大きくするだけでなく、耳鳴りを打ち消す音(ザーという音等)を同時に出します。
いまは、多くの補聴器メーカーが耳鳴治療機能搭載の補聴器を提供しています。
以下に主な補聴器メーカーが提供している耳鳴治療機能搭載の製品を紹介します。
- WIDEX補聴器
①ゼンプログラム:耳鳴りを気にならなくする効果に加え、解放感・沈静効果をもたらすと考えられる音色を利用した楽音プログラム
②サウンドリラックス:モーメントシリーズの補聴器に搭載されたより柔らかで自然をイメージさせる新世代の耳鳴り治療音
- シグニア補聴器
シグニア補聴器の多くの製品は耳鳴り治療器機能(TRT)を搭載しています。耳鳴治療用ノイズに加え4種類の波の音を搭載しています。
心地よい波の音が不快な耳鳴りから意識をそらし、安らぎの時間を与えてくれます。詳細はこちら
またシグニアには耳鳴り治療専用の機器 iTCI 3もあります。詳細はこちら
- オーティコン補聴器
耳鳴りサウンドサポート:補聴器に搭載された特別なプログラムには、心を落ち着かせる海のような音から安定したホワイトノイズまで、さまざまな音が用意されています。
自然の音はダイナミックでありながら心を落ち着かせ、耳鳴りの煩わしさを大いに軽減することが期待できます。
- リサウンド補聴器
①耳鳴治療用の「サウンドセラピー機能」を搭載
②スマホアプリ「リサウンド・リリーフ」も提供
- フォナック補聴器
補聴器には「耳鳴りノイズ・バランス」機能搭載
- スターキー補聴器
①耳鳴治療音機能Inspire
②スマホアプリ「relax®」
まとめ
●耳鳴りの原因は多岐にわたりますが、最も多いのは難聴です。
●難聴による耳鳴りは、脳が音の不足を補おうとする結果として起こります。
●耳鳴りの治療法は、原因に応じて異なりますが、難聴を伴う耳鳴りの場合、補聴器を使用することで難聴と耳鳴りの両方を改善できる場合があります。
●耳鳴りでお悩みの方は、専門医に相談し適切な治療法を見つけることが大切です。