聴力検査結果の見方がわかる!「標準純音聴力検査」を詳しく解説

皆さんは耳鼻咽喉科で聴力検査を受けたことはありますか?耳の不調を感じたり、会社の健康診断の結果が「所見有」となると、耳鼻咽喉科で聴力検査を受けることになります。

この記事を書いている筆者は、過去2回突発性難聴になっており、直ぐに耳鼻咽喉科で聴力検査を受けました。私にとって耳の聞こえは、職業柄重要なことですので、当時は不安に感じました。ですが私は聴力検査の結果の読み方を知っていましたので、自身がどれくらいの聞こえなのか理解でき、比較的冷静に対応できたと思います。

それでは、耳鼻咽喉科の聴力検査は何を目的に何を検査しているのでしょうか?
また、検査結果のグラフは何を示し、どのように読み取るのでしょうか?

今回は、聴力検査の目的や方法、検査結果の見方をご紹介します。これから聴力検査を受ける方、受けたけれど、結果の見方がわからない方に参考になる記事ですので、是非最後までご覧ください。

1 「標準純音聴力検査」とは

耳鼻咽喉科で実施される聴力検査は一般的に「標準純音聴力検査」です。一方会社の健康診断で受ける聴力検査は「選別聴力検査」と言います。会社の健康診断の聴力検査で「所見有」と診断されると、耳鼻咽喉科を受診することがパターンとして多いですが、まず2つの聴力検査は何が違うのでしょうか?

1-1 標準純音聴力検査と選別聴力検査の違い

項目 標準純音聴力検査 選別聴力検査
実施場所 耳鼻咽喉科 健康診断(会社等)
測定周波数

125、250、500、1000、2000、4000、8000Hz

7つの周波数

1000Hzと4000Hzのみ

2つの周波数

目的 難聴の有無、程度、種類を詳細に調べるために 集団から騒音性難聴などの聴力低下の兆候がある人を早期に発見するために
詳細性 高い(多くの周波数で詳細な聴力データを取得) 低い(限られた周波数で聴力データを取得)
推奨行動 結果に基づいて適切な治療や対応を検討 「所見有り」の場合、詳細な検査のため耳鼻咽喉科を受診

 

健康診断の聴力検査は、職場での騒音に基づく聴力低下(騒音性難聴)を早期に判定し、騒音の多い職場の環境改善のための検診項目としてもうけられています。
健康診断の聴力検査については、この記事を参照してください。
健康診断の聴力検査とは?異常が出た時に疑われる病気とその後の行動

集団の中で簡易的で効率よく聴力低下の兆候がある人を発見するのが選別聴力検査、より詳細を調べるのが耳鼻咽喉科で実施する「標準純音聴力検査」です。この記事で
は、標準純音聴力検査について詳しくご説明します。

1-2 標準純音聴力検査が推奨される状況

それではどのような時に耳鼻咽喉科で標準純音聴力検査を受けるべきなのでしょうか?

上記の健康診断での聴力検査で「所見有」になった場合は、必ず標準純音聴力検査を受けるべきです。それ以外にも、下記のような症状がある場合は、早期に耳鼻咽喉科で標準純音聴力検査を受けましょう。

聞き取りにくさを感じる場合

  • 日常会話や電話で相手の声が聞こえにくいと感じる。
  • テレビやラジオの音量を以前より大きくしないと聞こえない。

耳鳴りや耳の閉塞感がある場合

  • 耳鳴り(耳の中で音がする感じ)が頻繁にある。
  • 耳の中が詰まった感じがする。

バランスの問題がある場合

  • めまいやふらつきが頻繁に起こる。
  • バランスを取るのが難しい。

高音や低音が聞き取りにくい場合

  • 特定の音域(高音や低音)が聞き取りにくい。

他人に指摘された場合

  • 家族や友人から、聞き取りにくそうだと指摘される。

聴力に影響を与える病歴がある場合

  • 中耳炎などの耳の病気を繰り返している。
  • 耳の手術を受けたことがある。

年齢に伴う聴力低下

  • 加齢に伴う聴力低下を感じている。

2 標準純音聴力検査の方法と目的

標準純音聴力検査は、「気導聴力検査」と「骨導聴力検査」の2種類の検査で構成されており、それぞれ異なる部分の聴力を測定することで耳の健康状態を総合的に評価します。

これらの検査の違いを明確にするために、具体的な目的と実施方法の棲み分けを詳細にご説明します。

表:標準純音聴力検査の比較

検査タイプ 使用する器具 音の伝わる経路 測定対象の聴力部分 検査の目的
気導聴力検査 ヘッドホン 外耳⇒鼓膜⇒中耳⇒内耳 外耳から内耳までの全体的な聴力 外耳から中耳の障害を含む全体的な聴力を評価するため
骨導聴力検査 骨伝導振動子 骨を通じて直接内耳に伝わる 内耳の聴力のみ 中耳の影響を排除し、内耳や聴神経の問題を特定するため

 

図:耳の構造と難聴の種類

耳の構造と難聴の種類

気導聴力検査

目的
・外耳、中耳、内耳を通して音がどのように伝わるかを評価します。
全体的な聴力レベルを測定します。

方法
・ヘッドホンやイヤフォンを装着し、音を直接耳の中に送ります。
・オージオメーター(聴力検査機)を使って、さまざまな周波数の音を異なる音量で呈示します。
・被験者は、音が聞こえたときにボタンを押したり、手を上げたりして応答します。
・結果はオージオグラムに記録されます。

特徴
・音が空気を通って耳に届く通常の聴取経路を評価します。
・外耳や中耳に問題がある場合、その影響を反映します。

骨導聴力検査

目的
・内耳および聴神経の機能を評価します。
・外耳や中耳を通らない音の伝達を測定します。

方法
・振動子(骨導レシーバー)を頭蓋骨(通常は耳の後ろ)に直接当てて音を伝えます。
・振動によって内耳に音が伝わり、聴神経に到達します。
・オージオメーターを使って、さまざまな周波数の音を異なる音量で提示します。
・被験者は、音が聞こえたときにボタンを押したり、手を上げたりして応答します。
・結果はオージオグラムに記録されます。

特徴
・外耳や中耳の影響を排除して、内耳と聴神経の機能を評価します。
・骨導聴力が正常で気導聴力に問題がある場合、中耳や外耳に障害があることを示唆します。

このような棲み分けにより、気導聴力検査と骨導聴力検査は、それぞれの聴力障害の原因を明確に特定するのに役立ちます。両検査を組み合わせることで、聴力問題の全体的な診断に役立てます。

3 聴力検査の結果、オージオグラムの見方

測定した聴力はグラフに記入し、これを「オージオグラム」と呼びます。下図はオージオグラムの例です。

グラフの見方ですが、縦軸は聴力レベルdBHL(デシベル エイチエル)(HL: Hearing Level)を表しています。音の大きさを表していて、下にいくほど大きな音になります。0dBとは音が出ていないのではなく、健聴な方がギリギリ聞こえるレベルに合わせてあります。

横軸は周波数Hz(ヘルツ)です。右に行けば行くほど高周波数、高い音になります。左に行けば行くほど低周波数、低い音になります。それぞれの音の高さを小さい音から徐々に大きくしながら聞いていき、どの大きさの音になったときに反応があったのかを測り、記号で示したものがオージオグラムになります。

まずは、〇×のマークに注目してください。全体的な聞こえの程度は、気導聴力、つまり〇×のマークで示されます。〇は右耳の聞こえ方、×は左耳の聞こえ方を示します。

〇×のマークが下に行けば行くほど、その高さの音が聞こえづらいということです。

向かって左側が下がっていると低い音が、右側が下がっていると高い音が聞こえづらいことを表しています。マーク同士を線でつなぐことで分かりやすくなっています。

次に「コ」の字型のマークを見てください。これは骨導聴力を表しています。左右で「コ」の字の向きが異なります。

後ほど詳しくご説明しますが、気導聴力からは、全体的な聞こえの程度を読み取ることができます。また、気導聴力と骨導聴力の結果から難聴の種類と原因が推測できます。

  • 気導聴力からは、全体的な聞こえの程度を読み取ることができる。
  • 気導聴力と骨導聴力の結果から、難聴の種類と原因が推測できる。

4 気導聴力の結果から聞こえの程度が読み取れる

7種類の音の高さを測定し、結果が出ました。そのうちの3種類、500Hz、1000Hz、2000Hzの値を下記の式に当てはめて計算すると「平均聴力レベル」が出ます。

例えば、下記の右耳の気導聴力結果(〇)の場合は、平均聴力レベルは37.5dBとなります。

25dB2×40dB45dB)÷4=37.5dB

先程の計算で出た平均聴力レベルを、下記の表に照らし合わせることで、難聴の程度が分かります。平均聴力レベル37.5dBであれば「軽度難聴」程度と読み取ることができます。

難聴の程度 平均聴力レベル 聞き取りの不自由度
正常 25dB未満 ・普通の会話は不自由を感じない
・ささやき声も良く聞こえる
軽度難聴 25dB以上~40dB未満 ・小さな声やささやき声は聞き取りにくい
・テレビの音が大きいと言われる
中等度難聴 40dB以上~70dB未満 ・普通の会話が聞きづらい
・自動車が傍に来て初めて気づく
高度難聴 70dB以上~90dB未満 ・大きな声でも聞きづらい
・大きな声でも聞き間違いが多い
重度難聴 90dB以上~ ・耳元での大きな声も聞きづらい
・日常の音声はほとんど聞こえない

5 骨導聴力と気導聴力の結果で難聴の種類と原因が推測できる

5-1 伝音難聴

次に、骨導聴力検査の結果も併せて見てみましょう。骨導聴力検査の結果は、「コ」の字のマークで表されます。

上記のオージオグラムは、骨導聴力が正常(健聴)で、気導聴力が中等度難聴レベルと読み取れます。骨導聴力が正常ということは、内耳以降の聞こえは問題がないことがわかります。

逆に気導聴力が落ちているということは、外耳から中耳に難聴の原因があることが推測できます。

このように骨導聴力と気導聴力に差が出る場合は、伝音難聴と呼ばれます。

下記に伝音難聴の原因部位、特徴、主な原因を記載します。

原因部位

外耳および中耳

特徴

・外耳や中耳で音の伝達が妨げられるため、音が小さく聞こえます。
・内耳や聴神経は正常に機能しているため、音の明瞭さには影響が少ないです。

主な原因

・耳垢(耳垢塞栓)
・外耳炎や中耳炎
・耳硬化症
・鼓膜の損傷

伝音難聴は、薬物療法や、外科的治療で改善することが可能なケースが多いとされます。聴覚に異常を感じた場合は、早めに専門医の新設を受けることが重要です。

5-2 感音難聴

上記のオージオグラムは、骨導聴力も気導聴力もほぼ同じ聴力レベルになっています。このような場合は、感音難聴と推測されます。

骨導聴力も落ちてきており、内耳以降に難聴の原因があると推測されます。

下記に感音難聴の原因部位、特徴、主な原因を記載します。

原因部位

内耳(蝸牛)および聴神経

特徴

・内耳や聴神経の障害により、音の感知や伝達が妨げられます。
・音が歪んで聞こえたり、聞き取りにくくなったりします。

主な原因

・加齢(加齢性難聴)
・大きな音への長期間の曝露(騒音性難聴)
・遺伝
・ウイルス感染
・薬物の副作用

感音難聴は、一般的に完全に治療することは難しいとされています。補聴器や人工内耳などの助けを借りることで生活の質を大きく改善できます。

また、早期発見と適切な管理が重要です。聴覚に異常を感じた場合は、専門医の診察を受けることが推奨されます。

5-3 混合難聴

上記のオージオグラムのように、骨導聴力と気導聴力ともに難聴であり、差がある場合混合難聴と推測されます。
下記に混合難聴の特徴、主な原因を記載します。

原因部位

外耳、中耳、内耳

特徴

・ 伝音難聴と感音難聴の両方の特徴を持ちます。
・ 音の伝達と感知の両方に障害があるため、音が小さく聞こえ、さらに聞き取りにくくなります。

主な原因

・ 中耳炎が進行し、内耳にも影響を与えた場合
・ 外傷による複合的な損傷

混合難聴は専門的な診断と治療を受けることで、生活の質を改善することができます。こちらも早期の対応が必要ですので、速やかに専門医の診察を受けるようにしましょう。

「難聴の種類別特徴や症状について」詳細はこちらから

6 標準純音聴力検査に必要な環境&機材、手順について

6-1 必要な環境

聴力検査は、周囲が騒がしい環境では正確に行うことが出来ません。そのため、聴力検査室(防音室)の中で行われます。

6-2 必要な機材

聴力検査にはオージオメーターを用います。気導聴力を測定する気導受話器、骨導聴力を測定する骨導受話器、応答スイッチなどが備わっています。

6-3 標準純音聴力検査の手順

  1. 聴力検査室に入り、椅子に座ります。
  2. 聴力検査についての説明を受けます。

  3. ヘッドホンを装着します。
    ・気導聴力検査の場合は、気導受話器でしっかり耳を塞ぎます。
    ・骨導聴力検査の場合は、骨導レシーバーを耳介(みみたぶ)の後方の乳突部にあてます。

  4. 検査を開始します。
    ・最初に気導聴力検査、その後、骨導聴力検査を実施します。
    ・一般的に聞こえの良い耳から測定します。
    ・少しでも小さな音が聞こえたら応答ボタンを押します。(手を上げる場合もあります)
    ・音が鳴っている間は押し続けます。
  5. 結果の説明を受けます。
    結果について不安な点や不明な点がある時は、しっかり確認をするようにしましょう。

まとめ

・ 標準純音聴力検査は、気導聴力検査と骨導聴力検査の2種類の検査で構成されている。
・  気導聴力検査の結果で聞こえの程度を推測できる。
・ 骨導聴力検査と気導聴力検査の差を基に難聴の原因と部位を推測できる。

聴力検査は耳鼻咽喉科で実施され、結果説明も受けることができます。ですが、ご自身でも結果の理解ができ、難聴の程度が理解できれば、聞こえづらさの対応も冷静に進めていくことができるのではないでしょうか。

今聞こえづらさを感じていたり、会社の健康診断で「所見有」となっているのでしたら、なるべく早く耳鼻咽喉で聴力検査を受けてください。そしてご自身の状況を把握したうえで、聞こえづらさに早めに対処するようにお勧めします。

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