
補聴器利用者に多い悩みのひとつが「電話」です。
補聴器をつけて電話に出る時、「相手の声がよく聞こえない」、「受話器を近付けるとピーピー音がする」ということがあります。
電話は誰もが使うコミュニケーションの手段です。特に仕事等で電話対応しなければならない人もいますので、スムーズに会話ができない、というのは困りますよね。
でも大丈夫です!実はちょっとした工夫で、補聴器でも電話がよく聞こえるようになります。
ここではすぐに実践できる補聴器使用時の電話の取り方を説明します。
目次
補聴器をつけていると、なぜ電話が聞き取りにくいのか
補聴器は、人の声をしっかり聞き取るための機械です。それなのに、電話は「生の会話ほど聞き取れない」というお話をよく耳にします。
電話が聞き取りにくい原因は大きく4つあります。
①表情や口元が見えない
人と会話するときは、自分が思っている以上に「視覚情報」を利用しています。相手の口の動きや表情を見て、話している声や内容を推測したり、補完したりしています。
電話での会話は相手の顔が見えないのでこれができず、音の情報だけで会話をしなければいけません。特に難聴者にとっては難しいことです。
②耳あなと補聴器のマイクの位置が異なる
受話器の「音が出る部分」はどこに当てますか?もちろん耳の穴に当てますよね。それは耳の穴が「音を聞く部分」だからです。
ですが補聴器の「音を聞く部分」は、耳の穴にはない場合があります。そのため、いつものように耳の穴に受話器を当てても、補聴器が音をとらえられないのです。
③電話越しの音質が良くない
電話を通した声は周りの雑音が混じったり、回線で音質が損なわれていることもあります。
④片耳で聞いている
普通の会話では、両方の耳が補い合いながら音を聞いています。そのため、片耳だけで聞く電話だと、聞き取りにくく感じる可能性があります。
このように、電話が聞き取りにくい原因は、補聴器の性能の問題ではなく、実はさまざまな要素が影響していることがわかります。
でも安心してください。補聴器を使っていても、快適に通話することができます!
次の章から4つの方法をご紹介します。補聴器や電話のタイプによってどの方法を選ぶかが変わりますので、まずは次の表で確認してください。。
方法1:電話の受話口を「補聴器のマイク」に当てる
一番手軽な方法は、電話の持ち方を変えて、受話口を補聴器のマイクに確実に当てる方法です。
「電話の受話口の位置」と「補聴器のマイクの位置」を合わせるために、「電話の持ち方」が重要になります。
■電話の受話口の位置
下記の図は固定電話、スマートフォン、携帯電話の「受話口」、つまり音が出る位置を示しています。例外もありますので、まずは自分が利用する電話の受話口を確認しましょう。
■補聴器のマイク位置
補聴器が音を取り入れる部分を「マイク」と言います。補聴器のマイクの位置は、補聴器の形状によって異なります。あなたが利用している補聴器はどんな形でしょうか。下記の図と照らし合わせて、マイクの位置を確認してみてください。
耳にかけて使う「耳かけ型・RIC型」の補聴器は、耳の後ろにある本体部分にマイクが配置されることが多いです。
「耳あな型」の補聴器は、耳あなの外から見える部分にマイクがあります。
分からない場合は、補聴器の取扱説明書を確認してみてください。
■電話の持ち方
●耳かけ型補聴器・RIC型補聴器は、受話器やスマートフォン、携帯電話の受話口を耳の上のマイク位置へずらして当ててください。「こんなに高い位置でいいの??」と思うくらいの位置に、補聴器のマイクはあります。鏡を見ながら練習してみてください。
●耳あな型補聴器は、通常の持ち方で使用できます。ただし、受話口を当てる時に耳あなに密着させると「ピーピー」とハウリングが発生しやすくなりますので、少しみみから離して持ちましょう。
普段の持ち方と変わりますので、最初はうまくいかないかもしれませんが、何回か練習を重ねると聞きやすい位置に当てやすくなります。
いざ電話がかかってきたときに、サッと当てられるように、普段から練習してみてください。
方法2:補聴器の「電話用プログラム」を作ってもらう
補聴器販売店で電話用の音(プログラム)を事前に設定してもらい、電話に出る時にプログラムを切り替えてから通話を始める方法です。
補聴器は様々な環境で使用します。騒がしい場所にいる、電話をする、テレビを観るなど、どのような状態にあるかで必要とされる音が違ってきます。
そのため、多くの補聴器には「プログラム」が複数設定できるようになっています。プログラムごとに特長が違う音設定になっていて、状況に応じて切り替えることができます。
例えば「電話用のプログラム」の場合、電話が一番聞きやすいように調節された音(音量を大きくする、聞き取りにくい音域をさらに強調する等)が事前に設定されています。電話がかかってきたら、補聴器のボタンやリモコンで「電話用のプログラム」に切り替えれば、より快適に通話できるのです。
補聴器によって設定できるプログラム数は違います。どんな状況で補聴器を使う機会が多いかを考えてみて、電話用のプログラムが必要なら、補聴器販売店と相談しながら設定してもらうと良いでしょう。
方法3:電話を補聴器に転送する「ストリーミング機能」を活用
方法3は、Bluetooth対応の補聴器とスマートフォンの間でのみ使える方法です。
Bluetooth搭載のスマートフォンは、様々なBluetooth対応デバイスに音声をストリーミング(転送)して再生させることができます。
代表的なのは、ワイヤレスイヤフォンです。スマートフォンにかかってきた電話の音声をイヤフォンに飛ばして、イヤフォンだけで会話をしている人もよく見かけますね。
それと同じように、Bluetooth対応補聴器は電話の音を直接聞くことができます。
また、Bluetoothの音声ストリーミングを使うと、よりクリアな音で聞くことができます。
通常は、
「スマートフォンの音声データ⇒スマートフォンの受話口⇒空気⇒補聴器のマイク⇒補聴器の音声処理システム」
と音が伝達されますが、Bluetoothの場合は
「スマートフォンの音声データ⇒補聴器の音声処理システム」
と直接飛ぶので、より良い状態の音声が補聴器から聞こえてくるのです。
ご使用の補聴器とスマートフォンの種類によって、出来る・出来ないがありますので、ご自身の補聴器とスマートフォンが使えるかを確認してください。
■iPhoneの場合
もしあなたのスマートフォンがiPhoneなら、「Made for iPhone補聴器」(MFi 補聴器)を使うと、iPhoneの通話を直接補聴器から聞くことができます。
MFi補聴器とは、アップル社のMFi認証を受けた「iPhoneとBluetoothで接続できる機能を搭載している補聴器」です。いま販売されているほとんどのBluetooth補聴器は、MFi補聴器です。
電話の音声を聞くために、補聴器とiPhoneをBluetoothでベアリングさせる必要がありますが、それほど難しくありません。
一度ペアリングすれば、電話の音声は補聴器に飛んできますから、電話の時にiPhoneを耳に当てて聞く必要はありません。手がふさがることもないので、とても便利です。
興味のある方はぜひ使ってみてください。
「Made for iPhone」補聴器を使う方法はこちら
https://support.apple.com/ja-jp/108780
■Andriodスマートフォンの場合
いま販売されているAndroidスマートフォンも、Bluetoothの音声ストリーミング機能を搭載しているものがほとんどです。ただし、Androidスマートフォンの中には、Bluetooth補聴器と接続するには中継器が必要な場合があります。
中継器を経由して音声が直接補聴器に飛ばされるので、しっかりと聞き取れるようになります。
自身の声も中継器が拾ってくれて通話相手に届けます。
中継器を使わなくてもよい場合もあります。
ASHA(Audio Streaming for Hearing Aids)対応あるいはBluetooth LE Audio対応のAndroidスマートフォンなら、補聴器と直接つなげられる場合もあります。詳細は補聴器とスマートフォンのメーカー、あるいは補聴器販売店に確認してください。
さらに最近の補聴器は「ハンズフリー」機能を搭載している器種もあります
スマートフォンに電話がかかってきた時、補聴器でも通知音がなり、補聴器のボタン等を押すだけで電話に出られます。
電話の音声が補聴器に転送され、さらに自分の声は補聴器のマイクに集音されて、電話の相手に届けられます。つまり、スマートフォンを持たずに両手を空けて通話することができるのです。
電話をしながら作業することが多い人には、ぜひ試してほしい機能です。
動画内のハンズフリー通話の操作は一例です。ご使用の補聴器がハンズフリー通話に対応しているか、また具体的な使い方は補聴器メーカーや補聴器販売店に確認してみてください。
方法4:テレコイル機能を活用
「テレコイル」とは、補聴器の中に組み込まれている小さなコイルで、電話からの電磁信号を受信するためのものです。Bluetoothの音声ストリーミングと同じように、音が直接補聴器に届くので、周囲の雑音がカットされ、クリアな音声で聞くことができます。
しかしこの機能を利用するには、テレコイル対応の補聴器と電話機の両方が必要です。
現在日本で販売されている補聴器は、テレコイル対応の器種が比較的に少なく、また電話もテレコイル機能を使えるものが少ないのが現状です。
この機能を利用するには、まず補聴器と電話機が対応しているか、メーカーに問い合わせしてみてください。
番外編:ビジネスシーンで
固定電話をビジネスで使用している会社は多くあります。オフィスへの電話はお客様からの重要な連絡が多いので、できれば何度も聞き返すなど、相手が不快に思うことを避けたいところです。
補聴器をつけた社会人が固定電話で対応する場合、「方法1:電話の当て方」と「方法2:プログラム」はぜひ試していただきたい方法です。
ですが実は、「方法3:ストリーミング」を活用する方法もあります。
会社が「電話転送のサービス」を利用しているなら、オフィスの固定電話にかかってきた電話をスマートフォンに転送し、さらにBluetooth音声ストリーミングで補聴器に飛ばす、というやり方です。
いまは、いろいろな電話サービスプロバイダーが、オフィス電話をスマートフォンに転送するサービスを提供しています。このサービスの代表的な例は、オフィスにかかってきた電話を、外出中の営業マンのスマートフォンに転送する、というものです。多くの会社が業務効率化のために、このサービスのを利用しています。
これを活用すれば、オフィス内でも固定電話からスマートフォンに転送しできます。実際このやり方を取り入れている補聴器ユーザーも多いようです。
自分の会社でこのサービスを利用できるか、ぜひ一度確認してみてください。
まずは試してみてください
これから補聴器を買おうとしている人、また、今使っている補聴器では電話が上手く聞けない人は、補聴器販売店で補聴器をレンタルして試してみるのはどうでしょうか。
自分の携帯電話とつながるか、また自宅やオフィスで利用できるかを確認することができます。
きこえナビでご紹介している補聴器販売店のほとんどが、補聴器のお試しレンタルを実施しています。
補聴器販売店検索ページの下の方で、条件を決めて検索することができます。「試聴レンタル実施」にチェックを入れてお店を探してみてください。
お店に予約をする時には「電話(スマートフォン、固定電話)とつながる補聴器を試したい」と伝えると良いでしょう。