「デジタル補聴器ってどうしてこんなに高いの?」「同じデジタル補聴器なのに、どうしてこんなに価格の差があるの?」「いくら位がおすすめなの?」。補聴器に興味をもった人にとって、真っ先に気になるのが、その値段のこと。
10万円未満で購入できるものから、50万円を超える高額器種まで、デジタル補聴器の値段には非常に大きな開きがあります。同じデジタル補聴器なのにどうしてこのような価格差があるのでしょうか。幅広い価格帯の中で最もおすすめなのはいくら位の補聴器なのでしょうか。
この記事では、デジタル補聴器の値段について深く掘り下げて解説、さまざまな疑問に答えます。
1 一般的なデジタル補聴器の値段は?
現在販売されているデジタル補聴器の価格は、片耳で5万円程度から50万円程度と大きな幅がありますが、価格帯でおおまかに3つのクラスに分けることができます。それぞれの価格帯の補聴器について紹介します。
1-1 5万円~15万円:エントリークラス
デジタル補聴器でいえば、低価格帯のクラスになります。
騒音を抑える機能や、ユーザーの聞こえの状態に合わせて調整できる機能など、デジタル補聴器としてのベーシックな機能は備えています。
ただし、高価格クラスの製品に比べると、心臓部であるマイクロチップの処理能力が低かったり、騒音制御など搭載機能の能力が劣っていたりします。また、AI機能といった最先端の機能は搭載されていません。
耳あな型、耳かけ型、コンパクトなRICタイプなど、このクラスでもいろいろなモデルから選択することができます。ただし、このクラスで充電式補聴器をラインナップしているメーカーはほとんどありません。
「初めての補聴器。自分の役に立つかどうかわからないので、まずは手頃な価格のものを」ということで、このエントリークラスを選択する人は多いようです。
1-2 15万円~30万円:ミドルクラス
デジタル補聴器では、最も販売量が多い価格帯のクラスになります。
エントリークラスに比べて、補聴器の基本性能が高くなり、搭載した機能もより高度なものになります。例えば、騒音を抑える力がより強くなっていたり、周囲の環境に対応する能力が高くなっていたりします。
充電式やBluetooth接続機能など、デジタル補聴器の最新の機能がほぼ搭載されているので、補聴器の効果を体感するにはおすすめのクラスだといえます。
1-3 30万円~50万円:ハイエンドクラス
マイクロチップの処理能力など最も基本性能が高く、多彩な機能をフルに搭載したクラスです。まさにメーカーの技術の粋を投入した製品が揃っています。
また、補聴器本体の性能や機能だけでなく、長い保証期間や紛失時の補償などアフターサービスを充実させた製品もあります。
補聴器ユーザーがより良い聞こえやサービスを求めて、このクラスに買い替えるケースも多いようです。
2 値段によるクラスの違いをもっと詳しく
それぞれのクラスでは具体的にどんな違いがあるのか、搭載機能やおすすめの人と生活シーンという点から比較してみましょう。
2-1 搭載された機能で比較
基本的な性能や搭載された機能、アフターサービスの手厚さなどで、デジタル補聴器の価格には大きな差が出てきます。
デジタル補聴器の性能・機能、つまり、[できること]という点で、それぞれのクラスを比較してみました。
高額な補聴器ほどより多く、より高度な機能が搭載されていることがわかります。(搭載機能はあくまで代表的なもので、メーカーによって多少異なります。また、各クラスの機能の有無、優劣については、あくまで目安となります)
補聴器の性能・機能 【できること】 |
エントリー |
ミドル 【15~30万円】 |
ハイエンド |
会話の邪魔になる騒音を抑える | ○ | ◎ | ◎ |
言葉を強調してより聞き取りやすくする | ー | ○ | ◎ |
使う人の聞こえの状態に合わせて細かく調整できる | △ | ○ | ◎ |
周囲の環境の変化に合わせて自動で最適な音を届ける | △ | ○ | ◎ |
電池交換の手間がいらない充電式 | ー | ○ | ○ |
スマホの会話や音楽を補聴器で直接クリアに聞く | ー | ○ | ○ |
アプリを使ってスマホで補聴器を操作する | △ | ○ | ○ |
補聴器がユーザーの好みを覚えて使うほど聞きやすくなる | ー | ○ | ○ |
長期保証や紛失補償などの充実したアフターサービス | ー | ○ | ◎ |
2-2 おすすめの人や生活シーンで比較
補聴器の価格差は、基本性能や搭載機能の差ということができます。高価な補聴器ほど高性能・多機能にはなるのですが、重要なのはどれだけ多機能なのかではありません。
「どの補聴器を使えば、生活がより便利で豊かになるかどうか」というポイントで補聴器を選ぶようにしてください。
その補聴器の性能や機能が、自分の生活環境やニーズに合っているかどうかを見極めることが重要です。
高価で多機能な補聴器が全ての人におすすめという訳ではありませんし、価格の安さだけを重視して選択すると「期待外れだった」ということにもなりかねません。
クラス | おすすめの人 | おすすめの生活シーン |
エントリー 【5~15万円】 |
・外出する機会のあまり多くない人 ・家族など少人数で会話することが多い人 |
・比較的静かなリビングでの家族での会話 ・自宅でテレビを見る |
ミドル 【15~30万円】 |
・仕事をしている人 ・人と会う機会が多い人 ・旅行や趣味で外出が多い人 |
・会議や打ち合わせ ・レストランや飲食店での集まり ・移動する電車やバスの中でのおしゃべり ・病院や役所でのやり取り ・ショッピングセンターでの買い物 |
ハイエンド 【30~50万円】 |
・仕事をしている人 |
・会議や打ち合わせ ・レストランや飲食店での集まり ・移動する電車やバスの中でのおしゃべり ・病院や役所でのやり取り ・ショッピングセンターでの買い物 ・騒がしい街中での会話 ・スポーツ観戦 ・ゴルフやジョギング |
3 おすすめなのはどのクラス?
補聴器を選ぶ上で「値段」の問題は避けて通ることはできませんが、最も重視するべきは、生活の中のどんな場面でもっと聞こえるようになりたいか、補聴器のサポートが必要なのかということです。
補聴器(=日常生活でのメリット)にいくら投資するのかという判断は、人によって異なります。
実際の購入プロセスでは、値段をはじめとしたいろいろな要素を考慮した上で、お店のスタッフと相談しながら最適な補聴器を見つけることになります。
3-1 機能や性能面を重視するなら、もちろんハイエンド
これまで説明したように、高額なハイエンドほどより多くより高度な機能が搭載されており、「できること」が多くなり、日常生活のよりさまざまなシーンでの活躍が期待できます。また、保証などアフターサービスの面でも最も充実しているのがハイエンドになります。
3-2 選択肢が多いのはミドル
補聴器専門スタッフから購入した方の約70%が、10万~30万円の価格帯の補聴器を購入しているという現状(JapanTrak2022)からみても、最もユーザーの多い、売れ筋の価格帯がミドルクラスということができます。
市場が大きく競争の激しいミドルクラスの価格帯には、各メーカーが、最新の機能を搭載した多彩なモデルを多数ラインナップしています。
選ぶ立場からすると、形状やデザイン、充電式や電池式、多彩な搭載機能など、幅広い選択肢から最適なものを見つけやすいということができます。
出典:APAC Trak JapanTrak 2022 調査報告 | 一般社団法人 日本補聴器工業会
3-3 日常生活に必要な性能・機能を備えているミドル
クラスごとの搭載機能比較表でも紹介したように、ミドルクラスには補聴器の主だった機能は概ね搭載されています。
また、使用環境という点からみても、ミドルクラスであれば、静かな家の中での会話はもちろん、会議や商談、家族や友人との食事、旅行や映画といったさまざまなシーンの聞こえをサポートすることができます。
3-4 結論
ハイエンドクラスを使えば、風の強い屋外など補聴器が苦手とする環境でもスムーズに会話できたり、AI機能など最先端の機能を生かした快適な聞こえを体験できたりと、さらに高い満足を期待することができます。
しかし、ハイエンドクラスのみに搭載される最高峰の機能までは必要ない、という人であれば、補聴器が提供する価値と投資する金額のバランスが最も取れているのがミドルクラスということができます。
4 デジタル補聴器選びのポイント[値段編]
最後に、デジタル補聴器の値段という視点から、補聴器を選ぶ上で知っておきたいポイントを整理しましょう。
4-1 安さ重視で選ぶと物足りなくなることも
いくら高性能で多機能だからといって、誰もが片耳50万円の補聴器を購入できる訳ではありません。特に、補聴器の効果を実体験していない人にとっては、価値が不確かなものに対して数十万円を投資するのは非常に勇気のいることです。
できるだけ安く補聴器を購入したいというのは誰もが抱く思いですが、エントリークラスは性能を抑えたり、機能をシンプルにしたりすることで、安価な値段を実現しています。
比較表にもあるように、ミドル以上にはあってエントリーにはない機能がかなりあります。その結果として、おすすめの人や生活シーンも限定的にならざるを得ません。
もちろん、レストランでの集まりや電車やバスでエントリークラスの補聴器が使えない訳ではありませんが、どうしても、期待したほどの効果を感じられない可能性があります。
「せっかく補聴器を買ったのに、期待したほどじゃなくて使わなくなってしまった」「もう少しいいものを買っておけばよかったのかも…」という話をよく耳にします。無駄なお金を使わないためにも、頭に入れておきたいポイントです。
4-2 高額器種の機能がもったいないケースも
デジタル補聴器の性能や機能はほぼ値段に比例しているため、基本的には、高価な補聴器ほど、屋外、騒がしい街中、電車やバスの中など、より会話の聞き取りが難しい環境にも対応することができます。
ハイエンドには、ミドルクラスの機能をさらに高度にしたものが搭載されていると考えるといいでしょう。
予算を度外視すれば、高性能で多機能なハイエンドがおすすめとなりますが、ユーザーによっては、ハイエンドが持っている性能や機能を最大限発揮できる場面がそれほど多くない人もいます。
4-3 値段と価値のバランスを見極めましょう
補聴器を選ぶ上では、自分がどんな生活をしていてどんな場面で聞こえにくさを感じているのか、そしてその状態を改善するためにはどんな機能が必要なのか、その機能を持った補聴器はどれなのか、というプロセスがとても重要になります。
補聴器を使うことで「どれだけ困っていたことが改善されるのか」「やりたかったことができるようになるのか」、つまり、補聴器が提供してくれるであろうメリットと補聴器に払うお金のバランスを見極めた上で、自分に最も合う補聴器を選ぶようにしてください。
ただ、自分だけでその判断をすることは非常に難しいといえます。最適な補聴器を選ぶためには、補聴器の専門家のサポートは必要不可欠です。