耳が詰まった感じやこもった感じがする。「ゴー」という耳鳴りが急に始まった。このような症状が出ている場合は、急性低音障害型感音難聴かもしれません。
急性低音障害型感音難聴は20代~40代の人に多く見られ、女性は男性のおよそ2~3倍の頻度で発症すると言われています。*
この記事では、急性低音障害型感音難聴の主な症状、発症の原因、治療法と対策などをご紹介します。
急性低音障害型感音難聴は、発症日から耳鼻咽喉科での初診日までの日数が短いほど予後が良い傾向があるといわれています。この記事を読んで、当てはまることが多いと感じる人は、直ぐに耳鼻咽喉科に受診されることをお勧めします。
*参考:柿本耳鼻咽喉科ウェブページ
目次
1 急性低音障害型感音難聴とは?
1-1 急性低音障害型感音難聴とは
急性低音障害型感音難聴とは、読んで字のごとく、「急に低い音が聞こえづらくなる難聴」です。
英語では「acute low-tone sensorineural hearing loss」と呼ばれ、ALHLと略されることもあります。
この難聴は、低音(低い音)、周波数でいうと125Hz~500Hz付近の音が聞こえづらくなります。男性の低い声や、回転数の低い車のエンジン音などが、この付近の音に該当します。
下記は急性低音障害型感音難聴のオージオグラム(聴力図)です。向かって左側の低い音(低周波数帯)の聴力が下がっています。(低い位置にマークがある→大きい音でないと聞こえない状態)
オージオグラムの見方は下記で詳しく知ることができます。
聴力検査結果の見方がわかる!「標準純音聴力検査」を詳しく解説
この難聴は「感音難聴」の一種です。
感音難聴とは、耳の構造の中で「内耳から聴神経」に原因がある難聴のことを差します。
感音難聴については下記で詳しく知ることができます。
難聴の種類別特徴や症状。原因・治療・対策案までわかりやすく解説
1-2 特徴
ほとんどが片耳で起こりますが、両耳で発症することもあります。日によって症状の強さが違うことや、一日のうちで症状が変動することもあります。
男性よりも女性が多く、年齢的には20~40歳で発症するケースが多いと言われています。特に20代がピークとなっており、若い方が急性低音障害型感音難聴になりやすいようです。
*出典:「急性低音障害型感音難聴の疫学検討」半田市立半田病院耳鼻咽喉科、名古屋大学大学院医学研究科頭頚部・感覚器外科耳鼻咽喉化学教室
1-3 主な症状
急性低音障害型感音難聴の主な症状
- 耳に水が入ったような感じがする
- 耳が詰まった感じがする
- 耳がこもった感じがする
- 「ゴーッ」という低い音の耳鳴りがする
- 周りの音が二重に聞こえる、響く
- 男性の声が聞こえづらい
1-4 日常生活で気が付くポイント
下記のようなことが日常で起きている場合、急性低音障害型感音難聴の可能性を疑った方が良いでしょう。
音がこもって聞こえる
周囲の音がこもったようになり、特に人の話し声が明瞭に聞き取れないことがある。テレビやラジオの音が普段より聞き取りにくく感じる。
耳に圧迫感や詰まった感じがある
耳が詰まったような感覚があり、時々耳の中で「圧力がかかるような」違和感を覚える。
日常生活の違和感
- 電話の声が聞き取りづらい
- 男性の声が聞き取りにくい
- 電車や社内のアナウンスの声が聞こえにくい
- 静かな環境での会話が聞き取りづらい
1-5 発症のメカニズム
急性低音障害型感音難聴になる原因は、耳の蝸牛という部分にあると言われています。
蝸牛は鼓膜のさらに奥、「内耳」と呼ばれる場所にある器官です。
理由は主に2つあると言われています。
メカニズム1 内耳(蝸牛)のリンパ液の流れが滞る場合
睡眠不足、ストレス、体の慢性的な疲れが蓄積すると、内耳にリンパ液を溜めるホルモンが過剰に分泌され、内耳がリンパ液でむくんだ状態になります。そのむくみが原因で難聴となります。
メカニズム2 内耳(蝸牛)の血液の流れが悪くなる場合
動脈硬化、低血圧、年齢に伴う体力低下などを原因として内耳の血液の流れが悪くなると、内耳の音を聞く細胞の働きが悪くなり、難聴が起こります。
2 急性低音障害型感音難聴の発症の原因
急性低音障害型感音難聴はストレスが引き金になることが多く、ストレス難聴ともいわれます。他の原因として睡眠不足、慢性的な体の疲れ、風邪、自律神経の乱れなどが挙げられます。
関連要因のまとめ
要因 | 具体例・リスク |
---|---|
循環障害 | 血流低下、自律神経の乱れ、睡眠不足 |
ウイルス感染 | 風邪やヘルペスによる内耳の炎症 |
内リンパ水腫 | 内耳のむくみ(メニエール病の可能性含む) |
ストレス・過労 | 慢性的な疲労、心理的なストレス |
遺伝的要因 | 家族に同様の病歴がある場合 |
環境要因 | 騒音、イヤホンの使用、高血圧や糖尿病などの生活習慣病 |
3 病院に行くタイミング
急性低音障害型感音難聴は、発症日から耳鼻咽喉科での初診日までの日数が短いほど予後が良い傾向があります。
発症日から1週間未満に受診した方の91.9%、2週間未満に受診した方の83.4%が治癒していますが、3週間以上になると治癒する方は45%というデータがあります。*
上記に記載した症状を感じた場合、とにかく早く耳鼻咽喉科を受診してください。
*出典:「急性低音障害型感音難聴の疫学検討」半田市立半田病院耳鼻咽喉科、名古屋大学大学院医学研究科頭頚部・感覚器外科耳鼻咽喉化学教室
4 治療法
急性低音障害型感音難聴の治療法は、薬が中心となります。
浸透圧利尿剤:イソバイド、メニレットゼリー
内リンパ水腫の軽減に効果があります。
ビタミンB12製剤:メチコバール
内耳の代謝を助けます。
ATP製剤:アデホス
内耳のエネルギー源となります。
ステロイドホルモン:プレドニンなど
内耳の炎症を取り除いたり、過剰な免疫反応を抑えたりします。
どれも医師の診断の下、処方箋を書いてもらって受け取る薬です。自己判断で飲まないようにしてください。
5 再発防止と予防のための生活習慣改善
再発防止のためにできるセルフケアをまとめました。ストレスを減らすこと、規則正しい生活を送ることが大事なことになります。
- ストレスをためないこと
- 飲酒を控えること
- 水分をたくさん摂取し、トイレを我慢しないこと
- 睡眠、休息を充分にとること
- 軽い有酸素運動をすること
- 長時間同じ姿勢でいるのをやめて、体を動かすようにすること
- ゆっくりとお風呂に入ること
6 急性低音障害型感音難聴に関するQ&A
突発性難聴、メニエール病との違いは?
急性低音障害型感音難聴と症状が似ている「突発性難聴」と「メニエール病」。それぞれの違いをまとめました。
急性低音障害型感音難聴 | 突発性難聴 | メニエール病 | |
---|---|---|---|
特徴 | 突然低音域の聴力が低下 | 突然広範囲の聴力が低下 | めまい・耳鳴り・難聴が繰り返される |
主な症状 | 耳のつまり感(耳閉感)、低音の耳鳴り | 片耳の急激な聴力低下、耳鳴り | グルグル回る強いめまい、耳鳴り、難聴 |
めまいの有無 | 軽いめまいが出ることがある | ほとんどなし | 強いめまいが特徴 |
聴力の影響範囲 | 低音域のみ | 全周波数帯域(高音・低音) | 低音域から始まり、進行すると高音域も障害 |
原因 | 内耳の圧力異常(内リンパ水腫) | 内耳の血流障害やウイルス感染など不明 | 内リンパ水腫(内耳のリンパ液増加) |
治療 | ステロイド・利尿剤 | ステロイド治療が中心 | 利尿剤、内耳循環改善薬、抗めまい薬 |
再発率 | 再発しやすい | 原則として再発しない | 再発が多く、慢性化しやすい |
後遺症のリスク | 比較的少ない | 放置すると聴力が戻らない場合がある | 繰り返すうちに聴力が徐々に悪化 |
この表はあくまでも目安です。ご自身で判断せず、必ず早期に耳鼻咽喉科に行くことをおすすめします。
仕事は休んだ方が良いですか?
内耳の障害は、ストレスや睡眠不足で悪化しやすい傾向があります。また無理をすると回復が遅れる可能性があります。特にめまいを伴う場合は、安全面を考えて仕事を休むことをおすすめします。
たとえ症状が軽くても、急性低音障害型感音難聴は再発しやいため、完治まで慎重に過ごすことが重要です。無理をするとメニエール病に進行する可能性があり、聴力の悪化を招きかねません。
イヤフォンを使用していることに関係がありますか?
急性低音障害型感音難聴は、イヤフォンでの音楽鑑賞が直接の原因ではないとされています。ですが、長時間のイヤフォン使用や大音量での音楽鑑賞は、悪化のきっかけになる可能性があります。
補聴器を検討した方が良いですか?
聴力の回復の可能性があるうちは、耳鼻咽喉科での治療を優先させてください。急性低音障害型感音難聴は早期の治療を行うことで回復しやすく、後遺症のリスクも比較的少ないとされています。
万一、聴力が回復しない場合は、耳鼻咽喉医師との相談のうえ、補聴器を検討することをおすすめします。