ひとことで補聴器といっても、形も価格もさまざまです。補聴器を検討している方に、まず知っていただきたいのが、その「中身」の違いです。
[デジタル補聴器]、[アナログ補聴器]という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
1990年代の登場から、デジタル補聴器は瞬く間に多くのユーザーに受け入れられ、現在、市販されている補聴器のほとんどはデジタル補聴器になっています。
不要な雑音を抑えて聞きたい言葉をしっかり伝えるという、アナログ補聴器ではどうしても解決することが難しかった課題が、デジタル技術の進化によって克服されつつあります。
アナログ補聴器の選択肢は多くはありませんが、実際にお店に行く前に、デジタル補聴器とアナログ補聴器の違いや、それぞれの特長、どんな人に向いているのかなどを事前に把握、検討することをおすすめします。
1 デジタル補聴器・アナログ補聴器を徹底比較
補聴器のデジタル・アナログといっても、ピンとこない人も多いでしょう。価格はもちろん、見た目や形でも違いはあるのですが、一番大きいのは、「補聴器の中で行っていること=できること」の違いになります。
デジタル補聴器には、小さなコンピューター(マイクロプロセッサ)が内蔵されており、アナログ補聴器よりも、はるかにきめ細かな分析・処理を行うことができるようになりました。
補聴器の主流はアナログからデジタルへと大きく変わりましたが、アナログ補聴器とデジタル補聴器をさまざまな点で比較してみます。
1-1 信号処理方式で比較
デジタル補聴器
デジタル補聴器では、マイクが拾った音声をアナログ信号からデジタル信号に変換します。デジタル信号は、アンプ内のコンピューターによって、騒音と言葉を識別したり、特定の周波数を強調したりといった高度な処理が行われます。その結果、デジタル補聴器の特長である、使う人に合わせた細かい調整や環境の変化への対応、騒音の抑制、会話の強調などが可能になります。
こうして処理されたデジタル信号が、もう一度アナログ信号に変換されて、レシーバー(スピーカー)から再生されます。
アナログ補聴器
マイクが拾った音声(空気中の振動)を連続したアナログ信号のまま変換し、変換された電気信号をアンプで増幅します。アンプで増幅されて大きくなった音がレシーバー(スピーカー)から再生されます。
基本的にアナログ補聴器では入って来た音をそのまま全て一律に増幅します。
1-2 聞こえ方の違いで比較
デジタル補聴器
音声信号のデジタル処理によって、きめ細かい音づくりが可能になります。使う人の聴力に合わせて特定の周波数の音を増幅したり、周囲の環境に雑音だけを抑えて会話を聞き取りやすくしたりすることができます。
アナログ補聴器
連続したアナログ信号のまま音を増幅するので、比較的自然な感じに聞こえるのが特長です。音の「質感」や「印象」がそのまま反映されます。半面、すべての音を同じように増幅するので、騒音が気になったり、大きな音が歪んで聞こえてしまったりという点もあります。
1-3 調整の柔軟性で比較
デジタル補聴器
使う人の聴力に合わせて、補聴器から出る音を細かく設定をしたり、調整したりすることができます。静かな場所や騒がしい場所など、環境に応じた最適な設定を記憶させて、場所に合わせて切り替えることができる器種もあります。また、低・中・高域ごとに、自分の好みで音のバランスを調整できる機能を搭載したものもあります。
アナログ補聴器
入ってきた音をそのまま増幅するため、調節が可能なのは音量程度になります。使う人の聴力に合わせた細かい設定や調整はできません。
1-4 搭載機能で比較
デジタル補聴器
価格帯やモデルによって搭載されている機能は異なりますが、騒音を抑える機能、会話を強調する機能、周囲の環境に対応して最適な音を届ける機能、スマートフォンの音楽や動画の音声を補聴器で直接聞く機能など、使う人や生活環境に合わせて聞こえ方を変えることができる多彩な機能があります。
アナログ補聴器
基本的には、音を増幅する機能しか搭載されていません。そのため、騒がしい場所で会話をしっかり聞きたいといったニーズに応えことは難しいといえます。
1-5 価格で比較
デジタル補聴器
アナログ補聴器に比べて高性能で多機能なため、どうしても価格が高くなります。一般的には、片耳で5万円程度~50万円程度と価格帯には大きな幅があります。
アナログ補聴器
機能や構造がシンプルなので、製造コストを抑えることができます。加えて、調整に関わる技術料が価格に反映されにくいので、デジタル補聴器に比べて低価格になります。
1-6 メンテナンスで比較
デジタル補聴器
高度な技術を使った精密機器なので、性能を最大限に発揮させ快適に使い続けるためには、こまめな掃除や乾燥などに加えて、専門家によるメンテナンスを定期的に受けることが大切です。故障の際も内容によっては費用が高額になる場合もあります。
アナログ補聴器
構造がシンプルなので、デジタル補聴器のようにこまめなお手入れや専門家による定期的なメンテナンスにあまり気を配る必要はありません。
2 デジタル補聴器の特長
デジタル補聴器の特長をユーザーにとってのメリットの視点から整理してみましょう。
2-1 使う人の聴力や聞こえの状態に合わせて細かく調整できる
当たり前の話ですが、聴力や聞こえの状態は千差万別です。高い音が聞こえにくくなっている人、大きな声で正面から話しかけられても聞き取れないことがある人、騒がしい場所や複数の人が参加する会議になると言葉の聞き取りが難しくなる人など、聴力低下の程度や聞こえ方の状況は人によって異なります。
デジタル補聴器は、こうした個々のユーザーの聴力や聞こえの状態を把握した上で調整に反映させることができます。つまり、デジタル補聴器は「使う人に合わせて音をつくる」ことができます。
2-2 雑音を抑え会話を聞き取りやすくできる
聴力の低下によって聞き逃しや聞き違いが増えてくると、家族や友人との会話が楽しめなくなってきます。補聴器の重要な役割の一つが、さまざま環境で会話をはっきりと聞き取れるようにすることです。
デジタル補聴器は音の詳細な分析と加工処理によって、静かな環境はもちろん周囲が騒がしい場所でも、会話の妨げとなる雑音を抑えながら言葉を聞き取りやすくしてくれます。
2-3 周囲の環境に対応して最適な音づくりができる
毎日の生活の中で補聴器ユーザーの周囲の環境は目まぐるしく変化します。
静かなリビングでテレビ、家族と電車でお出かけ、会社で会議、友人との会合…、デジタル補聴器はさまざまな環境の変化に対応しながら、その場所で最も快適な音を届けてくれます。移動する乗り物の中や雑踏、レストランなど騒がしい場所では、会話の邪魔になる雑音を抑えてできるだけ言葉を聞きやすく、比較的静かな場所では、気になるエアコンの音などを小さくして快適さを優先します。
こうした動作は全て自動で行われるため、補聴器ユーザーはいつどこにいても、聞こえのことを気にせずに快適に過ごすことができます。
2-4 サイズを小さくできる
心臓部のマイクロチップをはじめとする構成部品の小型化によって、耳の穴にすっぽり収まってつけていることがほとんどわからない超小型の耳あな型補聴器や、髪の毛で簡単に隠れてしまうようなコンパクトな耳かけ型補聴器が登場してきました。
デジタル補聴器は「できるだけ補聴器をしていることを人に知られたくない」というユーザーのニーズにも応えることができます。
3 デジタル補聴器はこんな人におすすめ
これまで、デジタル補聴器の特長について述べてきました。このような特長を持つデジタル補聴器は、どんな人におすすめなのでしょうか。
3-1 加齢性難聴に代表される感音難聴の人
感音難聴の代表格は、歳を取るにしたがって聞こえ方が衰えてくる「加齢性難聴」です。この難聴は、耳の奥の方(内耳)や聴神経といった感音器の障害によって起こります。
特徴として、高音域など特定の周波数の音が聞こえにくくなっているケースが多くあります。そのため、すべての音を単純に増幅するだけでは、聞こえを改善することは難しいといえます。
デジタル補聴器は、使う人の聴力の状態や生活環境などに合わせて細かい調整が可能なので、感音難聴の改善に役立つことが期待できます。
3-2 仕事などで人と話す機会の多い人
聴力が低下してくると周囲とのコミュニケーションに支障が出て来てしまいます。
とりわけ仕事をしている人にとって、聞き間違いや聞き逃しは大きな問題です。また、友人との集まりでも聞きにくいことで、会話の輪に入れないのは寂しいことです。周囲とのコミュニケーションが乏しくなると、社会的な孤立につながり、うつや認知症のリスクが高まる恐れがあります。
デジタル補聴器には、会話の妨げとなる余計な雑音を抑えながら言葉を聞き取りやすく機能や、声のする方向からの音を拾う機能など、会話をよりはっきりと聞くためのさまざまな機能が搭載されています。仕事だけでなく、周囲とのコミュニケーションを積極的に行いたい人にもおすすめです。
3-3 趣味を楽しみたい人
「テレビを見るのが大好きだったのに、家族からボリュームが大きすぎると言われて肩身が狭い…」「映画を見ても、台詞についていけなくて楽しくなくなった…」「コンサートに行っても臨場感が感じられなくなった気がする…」。デジタル補聴器があれば、そんな悩みも解決できるかもしれません。
デジタル補聴器は、さまざまな環境で言葉を聞き取りやすくしてくれるので、テレビや映画、お芝居などの台詞も聞きやすくなります。『まずちゃんと聞き取ること』に気を取られる必要がないので、純粋にストーリーを楽しむことができるはずです。
また、風や波の音、動物の声など、これまで聞こえにくくなっていた身の回りのたくさんの音が聞こえるようになるので、旅先での感動や思い出がより豊かなものになります。さらに、音楽を楽しむための特別な設定、機能を搭載した器種であれば、より臨場感のあるサウンドを楽しめます。
デジタル補聴器があれば、これまでと同じように、自分の好きなこと、やりたいことを続けることができます。
3-4 できるだけ目立たない補聴器が欲しい人
「補聴器は年寄臭い」「できればつけていることを回りに知られたくない」と考えている人にこそ、デジタル補聴器がおすすめです。
技術の進化によって、デジタル補聴器は驚くほど小さく目立たなくなってきています。耳の穴にすっぽり収まって、外からはほとんど見えないタイプや、耳の後ろにかけて髪の毛で覆うとつけていることがほとんどわからないタイプなど、選択肢も豊富になってきています。
3-5 最新機能が搭載された補聴器が欲しい人
これまで紹介したように、デジタル補聴器の代表的な機能として、使う人に合わせて細かく設定できる機能、雑音を抑制して言葉を聞き取りやすくできる機能、周囲の環境に対応して最適な音を届ける機能などが挙げられます。
こうした基本的な機能だけでなく、最新のデジタル補聴器ではさらにいろいろな機能が追加されています。
一例を挙げると、スマートフォンの通話や音楽を補聴器にBluetoothで送ることで、クリアに聞くことができる機能や、スマホのアプリを使って補聴器を操作する機能などです。
その他、様々なところで話題になっているAI機能を搭載した補聴器も登場しています。AI補聴器はユーザーの音の好みを理解、学習することで、さらに聞きやすくなるよう成長していく補聴器です。
このように、デジタル補聴器は進化を続けています。最先端の補聴器の機能を使いこなしたいという人には、最新のモデルがおすすめです。
4 アナログ補聴器の特長とおすすめな人
それでは、アナログ補聴器にはどんな特長があり、どんな人に合うのでしょうか。
4-1 音量を大きくすれば聞こえる可能性がある伝音難聴の人
アナログ補聴器は、デジタル補聴器と違って、基本的には全ての音を同じように増幅します。
そのため、耳の中の音をとらえる場所に音が十分に伝わっていないことで発症する「伝音難聴」には、音の複雑な処理を行わずに音の増幅だけを行うアナログ補聴器での効果が期待できます。
4-2 家の中など比較的静かなところにいることが多い人
デジタル補聴器のように音を分析して加工する機能は、アナログ補聴器にはありません。
入ってくる音を一律に増幅するため、人ごみや移動する乗り物の中といった騒がしい場所では、騒音も一緒に増幅され会話が聞き取りにくくなりがちです。
ただし、周囲に会話を邪魔する雑音が少ない家の中などの静かな環境であれば、アナログ補聴器でも会話をクリアに聞き取ることができる場合もあります。
4-3 自然な音が好きな人
アナログ補聴器は入ってくる音を連続したアナログ信号のまま増幅します。デジタル補聴器のように信号を変換したり、加工処理したりするプロセスがありません。
そのため、音の自然さを好む人に評価されるようです。
4-4 できるだけ低価格の補聴器が欲しい人
アナログ補聴器は機能や構造がシンプルなので、製造コスト抑えることができます。また、調整のための技術料もデジタル補聴器のようにはかかりません。
極力安く補聴器を購入したいという人には、アナログ補聴器は有力な選択肢となるでしょう。
5 デジタル?アナログ?選ぶ上でのアドバイス
補聴器というと、ついつい見た目や価格に気を取られがちですが、「中身」の違いでデジタルとアナログの二つに分けることができること、そして、それぞれの違いや特長とどんな人に向いているのかを説明してきました。
現在購入できる補聴器のほとんどはデジタル補聴器ですが、デジタルとアナログについて理解することは、補聴器の使用を検討する上で参考になるはずです。最後に補聴器選びのポイントをアドバイスします。
5-1 デジタルなのかアナログなのかを見分けよう
具体的に補聴器を検討する際には、その補聴器がデジタルなのか、アナログなのかを把握するようにしましょう。
アナログ補聴器は比較的安価なものが多いですが、機能を絞った低価格帯のデジタル補聴器もありますので、価格だけで判断するのも難しい場合もあります。
店頭で検討する場合には、スタッフに確認することができますが、店頭でのやり取りがないインターネット等で検討する場合には、製品説明等で確認するようにしましょう。
デジタル補聴器とアナログ補聴器の違いは「中身」の違いです。「中身」の違い=補聴器でできることの違いになります。この点をしっかり理解した上で補聴器を選ばないと、「うるさいだけで良く聞こえなかった」「期待外れだった」ということになりかねないので注意が必要です。
5-2 自分だけで判断しないで専門家に相談しよう
デジタル補聴器、アナログ補聴器のどちらを選ぶにせよ、まずは、自分の聴力や聞こえの状態をしっかり把握すること、そして、自分の生活の中で補聴器に何を期待するかをイメージすることが肝心です。
安価で音が自然なアナログ補聴器がいいと思っていても、加齢によって聴力が低下している場合には、単純に音を増幅するだけのアナログ補聴器では、期待したような効果が得られない場合があります。
また、外出する機会が少なく、家の中など比較的静かな環境で過ごすことが多い場合は、高価なデジタル補聴器は必要ないかもしれません。
いずれにしても、耳鼻科の専門医の診察を受けて自分の聞こえの状態を正確に把握すること、補聴器店の専門家に相談して自分の希望や生活環境に適した補聴器は何かをしっかり理解することが大切です。
その上で、予算なども踏まえて自分に最適な補聴器を選ぶようにしましょう。