補聴器は両耳装用を推奨!その4つの理由と片耳装用との違いを簡単に解説

目が悪くなると、メガネをかけますね。そのメガネ、左右両方にレンズが入っているのは当然ですよね?左右両方の視力が低下しているのに、片方にだけレンズを入れる、なんてことはしませんよね。
実は、耳も同じです。両耳の聴力が低下した場合、「基本的に両耳に補聴器を装用」することが推薦されています。

この記事では、補聴器の両耳装用が推奨される4つの理由を解説します。
片耳装用の場合や、片方の耳が全く聞こえない場合に使用できる「CROS(クロス)補聴システム」についてもご紹介します。
補聴器を「両耳装用」しようか、「片耳装用」でいいのか、と悩む方は、ぜひご確認ください。

1 補聴器は両耳装用が基本とされる4つの理由

まず前提として知っておきたいのは、「音を聞く」のは「耳」、でも「音を理解する」のは「脳」だということです。
耳がとらえた音が電気信号として脳に伝わり、脳の中で処理・分析され、何の音なのか、またどういう意味の言葉なのかが理解できるのです。
この、「脳が音を処理する」というところに、両耳に補聴器をつける理由が大きく関わってきます。

それでは、両耳装用が基本とされる4つの理由を見ていきましょう。

理由1:騒がしい環境での聞き取りが向上する 

 
                レストラン                                             

日常生活では、駅の人混み、雑音の多いスーパー、居酒屋やレストランなど、騒がしい環境で会話をする場面は意外と多いですよね!騒がしい環境で、会話や特定の音を聞き取るためには「両耳」での聞こえがとても重要です。
騒がしい場所では人の声がしっかりと聞き取れないこともあります。例えば複数人との食事の際に、隣の人の話は聞こえても、向かい側の人の話は騒音に邪魔されて内容をはっきり聞き取れない、という経験ありませんか?

実は、こうしたうるさい環境の場合、両方の耳からの情報を脳へ送ることがとても重要です。

左右の耳から入って来る音の情報は、それぞれ少しずつ違います。正面にいる人の声は、左右の耳には同じように届くでしょう。ですが例えば右側遠くから来る食器の音は、右耳と左耳で若干違う情報になります。この両耳からの情報の差を脳が処理することで、雑音と必要な音をより効率よく選別することができ、必要な音や会話にフォーカスできるのです。

理由2:耳が疲れにくい

補聴器を両耳装用した方が、耳が疲れにくい傾向があります。
例えば、両目の視力が悪いときに、片目だけでメガネを使ったら、と考えてください。視覚のバランスが崩れ、それでも何とか見ようと一生懸命になり、疲労を感じてしまいますよね。

耳も同じです。「聞く」という作業は、元々両耳で行うプロセスです。それなのに片耳だけで両耳分の情報を得ようとすると、聞こえる方の耳により大きな負担がかかります。
片耳だけに補聴器を装用すると、必要な音量を確保するため、音を大きくする必要があります。その結果、耳は大きな音を聞き続けるとことになってしまい、疲労感も大きくなります。

両耳に補聴器をつければ、音量を小さめに設定しても十分に聞こえます。左右の音量のバランスがとられて、周りの雑音も抑えられるため、耳が疲れにくくなる効果があります。

理由3:音の方向や距離感がより正確に把握できる

両耳に補聴器をつけると、音の方向や距離をより正確に感じ取ることができます。
左耳は主に右脳、右耳は左脳へ音の情報を送ります。左右の脳がその情報を分析・統合することで、音の発生源や距離を判断します。この仕組みによって、音がどちらの方向から来ているのかを判断することができます。

例えば、誰かに呼ばれたときにも、方向がわかるとすぐに応答できます。

この機能が特に重要になるのが、屋外などでの危険回避です。道を歩いている時に、自転車や車が近づいてくる音が聞こえることは、とても大切です。
どこからその音がするのか、何の音か、どちらに避ければいいのかなどを即座に判断することができなければ、危険な状態に陥る可能性もあります。

理由4:補聴器の機能を最大限に活躍ができる

両耳に補聴器をつけると、片耳装用では使えない便利な機能を活用することができます。
これは、左右の補聴器が通信することで、お互いに調整し合えるからです。
例えば、シグニア補聴器*の場合、以下のような機能が使えます。

•ビーム指向性:横や後ろの音を抑え、前方の声を際立たせて聞き取りやすくする

 

•スピーチフォーカス360°:周囲360度の会話をとらえる機能

 

•OVP:自分の声のこもり感を軽減する機能

 

•スピーチロックオン:複数人での会話中に、話している相手の声を自動で追いかける

 

せっかく補聴器を使うのであれば、これらの機能を最大限に活用できる両耳装用がおすすめです。
*搭載機能は器種によって異なる場合があります。

 

以上が、大きな4つの理由です。
補聴器に関する大規模な実態調査「ジャパントラック2022」によると、「両耳装用は片耳装用より満足度が高い」との報告がされています。

*出典:Japan Trak 2022 https://hochouki.com/files/2023_JAPAN_Trak_2022_report.pdf

このように、両耳装用には様々なメリットがあります。

「補聴器は両耳につける」というのが基本であることを、覚えておいてください。

2 片耳装用が選ばれるケースもある

ただし、場合によっては「片耳装用」が適していることもあります。主に以下の3つのケースです。

①軽度~中等度の片耳難聴の場合
②両耳の聴力差が大きい場合
③予算的な制約で両耳装用が難しい場合(※推奨しません

いずれの場合も、専門家と相談しながら最適な選択をすることが大切です。

ケース①:軽度~中等度の片耳難聴の場合

片方の耳の聞こえ方が正常で、もう片方の耳が軽度または中等度の難聴になっている場合、聞こえにくい耳だけに補聴器を付けることで、両耳のバランスをとることができます。

「もう片方の耳はまだ大丈夫だから、まだ補聴器は使わない」と思いがちですが、悪くなっている方の耳に補聴器をつけることで、正常な耳の負担も軽減されます。ぜひ早めの補聴器装用を検討してください。

ケース②:両耳の聴力差が大きい場合

両耳に難聴がある場合でも、左右の聴力に大きな差があることがあります。この場合、片方の耳だけに補聴器をつけることが推奨される場合があります。

例えば、片方の耳が非常に重度の難聴や失聴に近く、もう片方は比較的聞こえる場合です。
この場合、悪い方の耳は補聴器をつけても効果が期待できませんが、聞こえ方が良い耳は補聴器をつけることで楽に音を聞くことができるようになります。
普段から良い方の耳が「もう片方の耳の分まで音を聞こう」と頑張っているはずですので、その負担を減らすことができます。

ケース③:予算的な制約で両耳装用が難しい場合(※推奨しません

補聴器は安いものではありません。値段の問題は、両耳装用のために2台買うか、片耳装用にして1台にするか、という選択に影響してきます。
ですが、値段の観点から片耳装用を選ぶ、というのはおすすめしません。
1補聴器の両耳装用が基本とされる4つの理由」で説明したように、両耳に補聴器をつけることで得られるメリットはとても大きなものです。

予算が気になる場合は、「高価な補聴器を片耳だけにつける」よりも、少しランクを下げてでも「お手頃な補聴器を両耳につける」ことを推奨します。たとえ機能が少ないお手頃な補聴器だとしても、両耳装用にした方が、片耳装用よりもメリットが大きいとされています。
予算と相談しつつ、できるだけ両耳装用を検討しましょう。

3  片方の耳が全く聞こえない場合の補聴システムも

片方の耳が全く聞こえない、または高度・重度難聴である場合は、「CROS(クロス)」および「BiCROS(バイクロス)」という補聴システムを使用できます。これらのシステムは、聞こえない耳側の音を、聞こえる耳に届けるシステムです。

CROS BiCROS
片耳がほぼ健聴の場合 良い方の耳にも難聴がある場合
片耳で両側の音を聞く 片耳で両側の音を聞くかつ 補聴器の機能を活かす

「CROS」システム     

聞こえない耳にCROS送信機(マイク、送信機能が搭載されたもの)をつけて、その音を反対側の耳につけた補聴器に飛ばして聞くシステムです。これによって、片耳だけで両側の音を聞くことができ、聞こえない耳の方からの音を聞き取りやすくなります。

筆者はこのシステムを普段から使っている人にインタビューしたことがあります。
両方からの音が片方から聞こえてきたら、どちらからの音なのか分からないのではないか?距離感なども分からないのでは?と聞いたのですが、「補聴器から聞こえる音が左右でほんの少し早さや音の質が違うので、慣れるとどちら側からの音なのかが分かるようになる。距離感や空間の広がりが分かり、片耳だけよりも楽になった。」と言っていました。
これはあくまでその人個人の感覚ですが、多くのCROSシステム利用者が利便性を感じていることは確かです。

「BiCROS」システム

BiCROSは、CROSシステムに加えて、聞こえる耳の補聴器の機能を活かして、外の音を処理し、音を大きくした上で、聞こえる耳に届けることができるシステムです。

4 まずはプロに相談してみましょう

ここまで、「補聴器は両耳装用が基本」とお伝えしてきましたが、実際に両耳と片耳のどちらが自分にとって適切なのかは、専門家の判断を仰ぐことをお勧めします。
自分で「両耳がいい」「片耳がいい」と判断しても、実際には自分に合っていない場合もあります。

まずはお近くの耳鼻科または補聴器販売店に行って、聴力を測定してみましょう。そして、プロとしっかり相談しながら、自分にぴったり合う補聴器を選びましょう!

5  補聴器の両耳装用についてよくある質問

補聴器の両耳装用の場合、耳ごとに違うメーカーや器種を選んでもいいですか?

おすすめしません。メーカーや器種ごとに調整方法や機能が異なります。また、補聴器同士で通信する機能も、同じ器種でないと制限される場合があります。補聴器の機能を最大限活かしたいのなら、左右の耳に同じ器種を装用することをおすすめします。

片耳だけ聴力が低下しています。その場合、両耳装用の方がいいですか?

耳ごとの聴力の差によります。左右の耳の聴力に大きな差がある場合は、片耳装用が推奨されることもあります。詳しくは「ケース②:左右の耳の聴力に大きな差がある場合」をご確認ください。

日本では「両耳装用」と「片耳装用」、どちらか多いですか?

「Japan Trak 2022」によると、日本では「片耳装用」の方がまだ多いようです。

出典:Japan Trak 2022 https://hochouki.com/files/2023_JAPAN_Trak_2022_report.pdf

最初は片耳を購入し、後からもう片方を追加するのは問題ないですか?

問題はありませんが、できる限り最初から両耳装用をおすすめします。初めから両耳装用をすることで、”新しい聞こえ方”に慣れやすくなり、補聴器の機能を最大限に活用できます。

両耳装用で購入した場合、片耳だけで使うことはできますか?

可能ですが、推奨されません。補聴器の購入の際、両耳装用想定で調整されています。片耳のみで使用すると、機能が十分に活かせず、聞こえのサポートも不十分になる可能性があります。

まとめ

この記事では、「補聴器の両耳装用」が基本とされる理由として、以下の4つを解説しました:

・聞き取りやすさ
・疲れにくさ
・方向感の向上
・補聴器機能の最大限の活用

ただし、「補聴器は基本両耳装用」と言っても、「片耳装用」が適している場合や、「CROS」・「BiCROS」の特別な補聴方法があることも紹介しました。

補聴器は一人ひとりの聴力に合わせて選ぶことが大切です。「両耳がいいか」「片耳がいいか」と迷ったときは、まず耳鼻科や補聴器販売店で専門家に相談しましょう。

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