補聴器を使っている人から「補聴器をつけると、周りの音がうるさくて長くつけていられない」、「補聴器の雑音が気になる」、「騒がしくて使っていると疲れる」等のお悩み相談をよくいただきます。中には雑音を我慢できなくて、せっかく買った補聴器がタンスの肥やしになってしまう人もいます。
管理医療機器である補聴器から出ている音は、決して耳の健康を損なうほど大きくないはずです。ではなぜ、補聴器をうるさく感じてしまうのでしょうか。
本記事ではその原因を解説します。皆さんが抱えている悩みが解消し、補聴器で快適な聞こえを手に入れる手助けになればと思います。
目次
1 なぜ、補聴器がうるさく感じるのか
補聴器がうるさく感じる原因は、使用者側の問題、補聴器側の問題など、いくつか考えられます。筆者が感じた「うるさく感じる」原因の多い順で並べると、下記の4つが挙げられます:
- 初めての補聴器の音に脳が慣れていない
- 補聴器の機能・性能の問題
- ハウリングが発生している
- 自分の声がうるさい
それぞれを詳しくみていきましょう。
2 「初めての補聴器の音に脳が慣れていない」その原因と対策
補聴器初心者によくあるケースですが、難聴になって聞こえなくなった音が、補聴器で再び耳に届くようになり、脳が「うるさい!」と感じてしまうことがあります。
これは一時的な現象であり、正しく使用しているうちにだんだん慣れて、快適に聞こえるようになります。
また補聴器のつけ初めにしっかりと「トレーニング」をすることで、より早く補聴器に慣れることができます。
2-1 初めての補聴器に脳が慣れない理由
人間は実は、「耳」でなく「脳」で音を聞いています。耳で集められた音は、耳の中で電気信号に変換されて脳に伝わり、脳で情報として処理されます。音を分析し、その音が持つ意味を理解するのは「脳」なのです。
人間の脳は、環境に順応して変化します。難聴の人の脳は、音があまり入ってこない環境にあり、音の処理も減少するため、「音を聞くこと」を忘れてしまっています。
その状態で補聴器をつけて、聞こえていなかった音が再び聞こえてくると、たとえそれが過去に聞こえていた音であったとしても、その刺激に脳がすぐには慣れず、「うるさい」「騒がしい」と感じてしまうのです。
例を挙げると、加齢により聴力が低下(加齢性難聴)した人が補聴器を使いはじめて、エアコンの音や椅子を動かす音が「うるさい」と訴えたとします。
でも健康的な聴力を持つ若い頃も、そのような音を聞いていたはずですよね。その時は特に「うるさい」と感じず、きっと無視していたと思います。
ですが、いったん脳がエアコンの音の存在を忘れてしまい、その後にまたその音が聞こえ始めると、その音に意識が向いてしまい「うるさい」と感じてしまうのです。
でも心配はいりません。この症状は、補聴器を使い始めのころに多くの人が経験することです。たとえ脳が音を聞くことを忘れていても、一定期間連続して補聴器で脳に刺激を与え続けると、だんだん雑音が気にならなくなっていきます。
「うるさくて自分には合わない」と、すぐに補聴器あきらめてしまうのは、もったいないことです。
2-2 補聴器に早く慣れる方法
うるさいと感じても、あきらめずに補聴器をつけて正しい方法で脳をトレーニングすると、脳が再び音に慣れて快適に聞こえるようになります。補聴器のトレーニングは、時間をかけて「難聴の脳」の状態から「聞こえる脳」に再び変化させていくという過程です。
まず補聴器トレーニングは何をやるのかを簡単に説明します。
①購入後、補聴器はまず本来必要な音よりも少し小さめの音に設定されています
➁定期的に補聴器販売店に通い、少しずつ音を大きくしていきます
③本来あるべき音の大きさになります(一般的には3ヶ月程度)
このトレーニングは、販売店の補聴器専門家と二人三脚で行うものです。自分にピッタリな補聴器に仕上げるために、補聴器専門家としっかりと話しながら調整してもらいましょう。
次に、トレーニングの際に気をつけてほしいポイントをまとめました。
- できるだけ毎日長く使う
トレーニングは一般的に、最初「補聴器の効果を実感できる音量で、うるさく感じながらも我慢できる程度の音量」に設定し、徐々に必要な音量まで上げていきます。うるさく感じるため、少しつらいかもしれませんが、毎日使うほど早く慣れることができます。朝起きてから夜寝るまで、できるだけ長く補聴器を使い、脳に音を届けましょう。 - いろいろな場所でいろいろな音を聞く
いろいろな場所で積極的に「聞き取る練習」をすることが大切です。会話が多くなるほど、聞く力がアップしていきます。会話だけではなく、水の音、エアコンの音等の身の回りの音も久しぶりに脳へ入るため、慣れるように積極的に聞きましょう。 - 家族の理解や協力をもらう
「難聴の脳」は、補聴器を装用し始めたからと言って、すぐにすべての音声を聞き分けられるようにはなりません。相手の口元、表情からも情報を読み取り、聞く力を身につけていきますので、身近にいる家族の協力は不可欠です。
家族の接し方次第で、より聞こえ方の改善や達成感を感じられるようになります。補聴器装用者の家族は、ぜひ下記の会話のコツを意識しながら、トレーニングを見守ってあげてください。
3 「補聴器の機能・性能の問題」その原因と対策
補聴器がうるさく感じる原因は、補聴器そのものに問題があるケースもあります。多くの補聴器には会話をより鮮明に聞こえるように、「会話の邪魔になる音を抑制する機能」を搭載しています。会話中に周りの雑音がうるさくてよく聞き取れない場合、補聴器の機能が十分に働いていない可能性があります。
3-1 補聴器の雑音抑制機能
まず補聴器に搭載されている、いくつかの代表的な「いらない音をカットする機能」を簡単に紹介します。
- 風雑音抑制機能
屋外で使用する時、補聴器のマイクに強い風が当たることで聞こえる「ボー」という音を抑制する機能 - 突発音抑制機能
食器がガチャンとぶつかる音、ドアがバタンと閉まる音、車のクラクションなど、普段の生活で突然聞こえる大きな音を補聴器が瞬時に判断して、その音を増幅しないようにする機能 - 反響音抑制機能
広い場所で、床や壁、天井等にぶつかりって反射してから届く反響音を抑制する機能
このような雑音がうるさく感じて会話に支障をきたすのなら、自分の補聴器にはこの機能が搭載されているのか、機能がうまく働いているのか、まずは販売店の専門スタッフに確認しましょう。
補聴器は車のようにいろいろなシリーズ・クラスがあり、安い補聴器だと機能が弱い、あるいはそもそも機能を搭載していない場合もあります。
また、補聴器に似ている「集音器」の場合、補聴器とは違って難聴のために作られた医療機器ではないため、補聴器のような高度な雑音抑制機能を搭載していない場合がほとんどです。
自分の使用するデバイスは補聴器なのか、それとも集音器なのかも一度確認しましょう。
【補聴器と集音器の違いについてはこちら】補聴器集音器の違いとは おすすめの人・購入時のポイントも紹介
3-2 補聴器の性能の影響
また、補聴器の「性能」も雑音抑制機能に影響を与えます。世の中の補聴器、どれも同じだと考えていませんか?実は性能が高い補聴器ほど、雑音抑制機能が強力に働き、より静かでハッキリとした音質に近づきます。
最近のデジタル補聴器は、マイクに入ってきた音を周波数で分割して、ブロックごとに別々の処理を行います。分割されたブロックが細かいほど、より正確に雑音を分離して抑制することができます。
同じメーカーが作った同じ見た目の補聴器でも、このような性能の差が存在しています。一般的に値段が高い補聴器ほど、補聴器に使われている部品の性能が良く、雑音抑制はより強力に働きます。
補聴器の雑音が気になり、販売店に調整してもらっても改善しない場合、次回買い替えの時により性能の良いものを選ぶように、心にとめておきましょう。
「高機能な(かつお高い)補聴器を購入してまた失敗したら?」と心配な方は、ぜひ購入前の補聴器試聴サービスを利用してください。最近は多くの補聴器販売店が、購入前に数週間ほど借りて聞こえ方を確かめられる「補聴器レンタルサービス」を提供しています。その仕組みをうまく利用して、満足のいく補聴器を購入しましょう。
【補聴器のレンタルサービスについてはこちら】補聴器のレンタルとは?3つのメリットと費用相場・活用方法まとめ
4 「ハウリングが発生している」その原因と対策
補聴器を使っていると、突然「ピーピー」鳴ってうるさい場合もあります。これは「ハウリング」と呼ばれる現象です。補聴器からハウリング音が発生する最も一般的な原因は、補聴器から出力されている音の漏れです。
補聴器は、マイクで音を集めて、増幅して鼓膜に向けて音を出しています。補聴器と耳の間に隙間があると、補聴器の音が外へ漏れてしまい、漏れた音がマイクに拾われさらに増幅されます…そうすると「ピーピー」とハウリング音が鳴るのです。
ハウリングをなくすための対策はズバリ「補聴器を正しく装着する」ことです。不必要な隙間がなくなったら、ハウリングも発生しなくなります。
補聴器をつける時に気をつけているのに、それでも頻繁にハウリングが鳴る場合、ぜひ一度購入したお店にご相談ください。補聴器の形状が耳に合ってっていない可能性があります。人間の耳あなの形は変わることもありますので、作った時にぴったり合っていても、徐々に合わなくなる可能性があります。
- オーダーメイドの耳あな型補聴器なら、補聴器の形状を修正してもらうことで改善できる
- 既製品の補聴器なら、耳せんを変更したり、「イヤーモールド」という耳の形に合わせた耳せんを作ったりすることで改善できる
5 「自分の声がうるさい」その原因と対策
補聴器を使っている人は、「自分の声がうるさい、響いて聞こえる」という場合もあります。それは補聴器が耳のあなを塞ぐことで発生する耳の構造による自然な現象です。
自分の声は2つのルートで耳に伝わります。一つは、自分の声が口から体の外に出て、また耳に戻ってくるルートです。もう1つが「体内を伝わって届く音」で、自分の声が自分の頭蓋骨を直接震わせて、それが耳のあなに伝わるものです。
補聴器を装用すると、第1ルートの「耳の外から届く音」が補聴器を通ることで大きくなります。そして、第2ルートで本来体の外に向かって出ていく振動が塞がれるため、それも大きく聞こえてしまいます。そうすると自分の声のバランスが変わり、「自分の声がうるさい、響いて聞こえる」という不快感を覚えてしまうのです。
解決方法はいくつかあります。
- 意識して小さい声で話す
- 耳のあなを完全に塞がない耳せんに変える
耳のあなを塞がない耳せんを使用する場合、補聴器と耳の間に隙間ができるのでハウリン グを引き起こすなどの問題が生じる可能性があります。かならず販売店と相談して選びま しょう。
- 自分の声の不快感を解消する機能がある補聴器を選ぶ
最近の補聴器は、自分の声の不快感を解消する機能を搭載している器種もあります。例:シグニアのOVP (Own Voice Processing)機能等。
現在使用中の補聴器では、どうしても自分の声が気になる場合、次回購入時に意識して自声の不快感を解消する機能搭載の補聴器を選ぶと良いでしょう。
6 まとめ
この記事では、補聴器でうるさく感じる場合の原因と対策を紹介しました。補聴器を装用し始めの頃、環境音をうるさく感じるのは当たり前のことで、それは生活する上必要な音です。
しかし、次のような場合は、ぜひ一度販売店の専門スタッフに相談してください。
- 雑音がうるさくて会話に支障をきたす場合(補聴器の雑音抑制機能設定に問題がある可能性が高い)
- 「ハウリング音」がする
-
「自分の声」がうるさく感じる
補聴器の調整や、耳せんの変更等で改善される可能性があります。もし、補聴器の機能・性能で対応することに限界があるなら、次に買い替える時にその悩みの解決につながる器種を選択しましょう。