難聴は予防可能!加齢性難聴を予防する6つの方法と定期検診の重要性

「最近、少し聞き間違いが増えてる」、「高い音が聞こえづらくて大好きな音楽を楽しめない」。そんなことに気づいていませんか。それは聞こえ方が変化してきたサインかもしれません。

歳を重ねるうち、耳が遠くなっていくのは当たり前ですが、やっぱりできれば難聴を予防して、若々しい耳を維持したいですよね。

この記事では、耳が遠くなるのをできるだけ遅らせる、難聴の予防法について紹介します。

1 難聴は様々な種類があるが、加齢性難聴は予防可能

難聴は様々な種類があり、種類によっては完全に予防することは難しいものです。ですが、歳を重ねるにつれて耳が遠くなる「加齢性難聴」は、対策を取ることで進行を遅らせることは可能です。

1-1 難聴の種類と加齢性難聴

難聴の予防法を理解するためには、まず耳の構造、難聴の原因や種類について確認しましょう。

難聴とは、耳が聞こえにくい状態を指します。一言で「難聴」といっても様々な種類があり、高齢者だけでなく、若い人にも起こりうる病気です。

一般的に難聴は「耳のどの部分で発生しているか」によって分類されます。

耳は3つの部分から成り立っています。

  • 音を集めて鼓膜へと伝える「外耳」(つまり、耳たぶと耳あなですね)
  • 鼓膜で受けた音を耳小骨(耳の中にある小さな骨)で増幅する「中耳」
  • 音の高低や大きさを分析し、音の振動を電気信号に変換する「内耳」

音は耳の3つの部分を通った後、聴神経を通じて最終的に脳に到達し、そこで初めて音として認識されます。

このような複雑なステップを経て私たちは音を聞いているのですが、耳のどこか、もしくは聴神経に障害が起こると、音の伝達が妨げられて、難聴が起こります。

難聴は耳のどの部分で障害が発生しているかによって、大きく「伝音難聴」、「感音難聴」、「混合性難聴」の3種類に分類されます。それぞれの原因と予防・治療法は下記の通りです。

難聴の種類 障害部位 原因 予防と治療
伝音難聴 外耳から中耳にかけて外耳や中耳に障害が発生している難聴 〇耳垢栓塞
〇外耳炎や中耳炎
〇鼓膜の損傷
〇先天性の耳小骨奇形等の病気
〇耳を衛生的に保つ
〇鼓膜が損傷する急激な気圧変化や、耳付近の強い打撲を避ける
〇予防が難しい先天性奇形によって発生している場合、手術で治す可能性がある
感音難聴 内耳や聴神経に問題が発生している難聴 〇先天性の遺伝子異常・妊娠時の母胎のウィルス感染
〇メニエール病、聴神経腫瘍等の耳の病気や薬物の使用によって発生する
●加齢による聴力の低下や、長時間騒音にさらされていたことで起こる
〇感染による先天性難聴は母胎によるワクチン接種で回避できる場合がある
〇大きな音に触れる時間を短くするなど予防が可能
〇感音難聴は一般的に医学的な治療や手術による聴力の改善は困難だとされている。補聴器か人工内耳で聴力を改善する方法もある
混合性難聴 伝音難聴と感音難聴の両方の症状がみられる難聴 上記の両方が原因となる 上記の両方の予防・治療法を参考

 

加齢性難聴は感音難聴の一種で、その名の通り加齢による「耳の老化」で起こる難聴です。特定の年齢以上のほとんどの人は、ある程度の難聴を経験します。

1-2 加齢性難聴の原因

加齢性難聴がなぜ起こるのか。その原因はずばり、耳の中にある音を感じ取る細胞が劣化するからです。

先ほど説明した内耳には、音の感覚刺激を生み出す渦巻き状の器官、蝸牛があります。蝸牛の内部には、音を感じとる「有毛細胞」が並んでいます。有毛細胞が揺れ動くと、振動が電気信号になって脳に伝わり、「音が聞こえる」と感じます。

この有毛細胞は、年を取るとともにダメージを受け、数が減少したり抜け落ちたりします。そうするとうまく電気信号を送れなくなり、その結果音が聞こえると感じにくくなります。

有毛細胞はいろんな原因でダメージを受けます。例えば:
●大きな音(=大きな振動)に長時間さらされる
●血管老化等による血流障害で、有毛細胞に酸素や栄養を運べなくなった
●ウィルス感染 等

有毛細胞は一度傷ついたら元に戻ることができません。加齢性難聴の場合、有毛細胞が劣化する過程は緩やかで、しかも両耳とも高い音からだんだんと聞こえにくくなっていきます。

人によって聴力低下の速さは違いますが、多くは50歳代から、早い人では30歳代から症状があらわれます。ただし加齢性難聴は徐々に進行するので、最初の頃は自覚しない人も多いです。

1-3 加齢性難聴を予防する鍵

加齢性難聴を予防する鍵は、「有毛細胞」を守ることです。

残念ながら現在の医学では、一度損傷・死滅した有毛細胞を再生することはできません。つまり、現時点では加齢性難聴の根本的な治療法がないのです。

ですので、今ある有毛細胞を守り、これ以上に減らさないことが、難聴を予防する上でとても重要なことです。

それでは普段の生活の中で実践できる難聴の予防法を確認しましょう。

2 予防法1 大きな音を避ける

難聴を防ぐ最も簡単な方法は、単純です。「大きな音を聞かない」こと。どこへ行く時も音の大きさに注意して、耳を傷める大音量を避けることです。

では耳を傷める「大きな音」とはどれぐらいの音量でしょうか?まずは、耳を傷める音の範囲を知りましょう。音の大きさは、デシベル(dB)という単位で測定します。

●通常の会話は60 dB程度
●85dBの音は、8時間連続して聞くと耳を傷める可能性が高くなる
●それより大きい100dBの音は、15分聞くことで耳を傷める可能性がある
●さらに大きい110~130dBの音は、レベルによっては数秒も経たないうちに耳を傷めてしまう

下記の図は日常生活の中でのいろいろな音の大きさです。

騒がしい工場やロックコンサート等、普段の生活の中でも意外と大音量のシーンが多いですね。このような騒がしい場所では音量を小さくして耳を守りましょう。例えば:

  • 大音量で長時間テレビを見たり、音楽を聞いたりしない

WHOは、音楽を聞くのは「80dBで週に40時間まで」という指針を示しています。それ以上になると難聴を発症するリスクが高まります。

  • ロックコンサート、オートレース等の大音量の場所では耳栓を着用する

ライブハウス等の場所では100㏈を超える爆音が発生することもよくあります。今は様々な耳栓が販売され、会話や必要な音は聞こえるけど、耳に負担がかかる音はシャットアウトしてくれるものもありますので、ぜひ試してみてください。

  • 工事現場などの騒がしい場所で作業する場合は、常に保護具を着用する

厚生労働省が策定した「騒音障害防止のためのガイドライン」では、85㏈を超える騒音が発生する職場においては、耳栓やイヤーマフ等の保護具を着用させることが義務付けられています。

WHOは、生涯を通して良好な聴力を維持する手段として、「安全に聞くこと(Safe Listening)」がとても重要だと指摘しています。WHOが定めた一日の音量の許容基準も合わせてご確認ください。

    3 予防法2 耳を休める

    有毛細胞が休む時間がないと疲労がたまるので、耳を守るには有毛細胞が休むための時間をしっかり作りましょう。

    ●イヤフォンやヘッドフォンで音楽を聞く時には、1時間おきに耳を休ませる時間を設けると良い、と多くの耳鼻咽喉科医師がお勧めしています。
    ●やむを得ず大きな音がする環境にいた後は、静かな場所で休憩するなど、しっかり耳を休めましょう。

    4 予防法3 生活習慣病に気を付ける

    毎日の生活習慣を見直し、生活習慣病を予防したり、適切に管理することで、難聴の発症や進行を遅らせることができます。

    高血圧、糖尿病、動脈硬化等の生活習慣病も、聴力に悪い影響を与えます。これらの病気は、耳の血流障害や聴覚に関わる神経障害を引き起こすと考えられ、難聴の危険因子として知られています。

    また、生活習慣病と診断されていなくても、肥満や喫煙、飲酒などの生活習慣病につながる悪い習慣は見直しましょう。内耳の血流量が減少することや低酸素が引き起こされると、有毛細胞が損傷し、加齢性難聴を加速させる可能性があると指摘されています。

    5 予防法4 食事に気を付ける

    難聴予防のためには、栄養バランスが取れた食事が基本です。

    その理由はまず、健康的な食事は肥満を防ぐことができるからです。さらに、栄養豊富な食事によって有毛細胞に酸素や栄養が届きやすくなり、神経と血流が活性化します。耳鼻咽喉科の先生がおすすめしている、耳に良い栄養素は下記の通りです。

    ビタミンB群:末梢神経の代謝を促し、内耳の神経の働きを良くすると言われているそうです。
    大豆、豚肉、ごま、ピーナッツに豊富に含まれています。 特にあさり、しじみ、レバー、さんまなどに多く含まれるビタミンB12は、積極的にとるとよいといわれています。

    ビタミンE:血液循環を改善し、強い抗酸化性作用があります。
    モロヘイヤ、カボチャ、アーモンド、うなぎ等の食材に非常に多く含まれています。

    マグネシウム:有毛細胞の代謝を良くするため、難聴の予防・抑制に効果が期待できるそうです。
    そば、バナナ、海苔、豆乳等から摂ることができます。

    DHA:老化を防ぐ成分を含んでいます。
    魚類や野菜類、ウナギやタラ、卵などから摂ることができます。

    出典:

    ふくおか耳鼻咽喉科WEBサイト
    やなぎだ耳鼻咽喉科WEBサイト
    板谷耳鼻咽喉科WEBサイト

    6 予防法5 適度な運動をする

    適度な運動は加齢性難聴を抑制する効果があります。

    最近の研究では、運動機能の向上が耳の血流を改善し、難聴を抑制する可能性が明らかにされています。東京大学大学院農学生命科学研究科の研究者らの動物実験を用いた研究※では、下記の図のように「長期運動」の介入で加齢性難聴の発症が遅延する可能性を示唆しました。

    つまり、血流を良くするための運動が、難聴予防にもつながる可能性があるということです。ウォーキングやジョギング等の有酸素運動で心拍数を上昇させると、酸素をたくさん含んだ血液を体中に届けくといわれていますので、ぜひ取り入れてみてください。

    ※出典:染谷慎一, 宮川拓也, 田之倉優,「運動と加齢性難聴」 化学と教育 65巻11号(2017年)

    7 予防法6 規則正しい生活とストレスに気を付ける

    ストレスや疲労、睡眠不足、不規則な生活などが、脳の自律神経の働きに悪い影響を及ぼし、血管が収縮して血流障害が生じたり、抵抗力が落ちて感染を起こしたりする可能性があります。

    普段からできるだけストレスをためないように、規則正しい生活を送れるように心がけてください。
    ※出典:日本耳鼻咽喉科頸部外科学会WEBサイト

    8 難聴の予防に関して寄せられる5つのQA

    ●難聴予防のため、ヘッドフォンやイヤフォンを使う時にどんなことに気をつければよいのか?

    ヘッドフォンやイヤフォンで音楽などを聞くときには、以下のようなことが推奨されています:

    1.  音量を下げる。音響機器によって異なるが、全体の60%以下の音量にする
    2.  使用を1日1時間未満に制限する
    3.  やむを得ず連続して聞く場合は、休憩を挟んだりする。推奨は1時間連続使用後に10分の休憩を取る
    4. 周囲の騒音を低減する「ノイズキャンセリング機能」のついたヘッドフォン・イヤフォンを選ぶ

    出典:

    Tips for safe listening WHO Make Listening Safe 2015.

    ヘッドホン・イヤホン難聴の予防促進サイト 一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 監修

    ●ライブやロックコンサートによく行く人はどう耳を守ればいい?

    ●ライブやロックコンサートによく行く方は、ライブ用耳栓を使いましょう。

    「ライブ用耳栓」は通常の耳栓とは異なり、音楽用に設計されており、音質や臨場感を損なわずに耳を守る効果があるものです。
    ライブ会場の音量は100dBを超えることもよくあります。耳の保護のためには、音量を80dB以下に下げるほうが安全ですので、音を20dB以上カットできる耳栓を選ぶのが良いでしょう。

    「急性音響外傷」に気をつけてください。

    ライブなどで大音量にさらされた後、耳のふさがったような感じや、難聴、耳鳴り等の症状が出る場合は、急性音響外傷を発症した可能性があります。短時間で自然に治ることもありますが、翌日以降も症状が続くようなら、すぐに耳鼻科を受診してください。

    ●難聴予防に有効なサプリメントはなに?

    難聴の予防は、内耳への血流を良好に保つことが大切です。

    血流の改善や老化の遅延等に効果がある栄養素の補充、例えば、前述のビタミンB群、ビタミンE、DHA等が含まれるサプリメントは有効かもしれませんが、難聴の予防対策としては医学的根拠に乏しいのが実情です。

    サプリメントの摂取については、様々な視点からの判断が必要になりますので、医師や薬剤師に相談してみてください。

    ●難聴予防に耳マッサージは有効なのか?

    耳マッサージは、耳周辺の血液の流れをよくする効果があると言われています。ただし、やりすぎると逆効果になったり、他の疾患などとバランスを取る必要もあるので、すべての人に効果があるわけではないでしょう。

    耳鼻咽喉科の先生が耳マッサージについてお勧めされているので、ぜひ参考にしてください。
    耳鳴り・難聴のお話 ふくおか耳鼻咽喉科 

    ●騒音が発生している職場ではどう耳を守ればいい?

    厚生労働省が策定した「騒音障害防止のためのガイドライン」では、85㏈を超える騒音が発生する職場においては、耳栓やイヤーマフ等の保護具を着用させることが義務付けられています。職場で大きな騒音が発生している場合、会社の規定に従い保護具を着用してください。

    また同ガイドラインでは、騒音職場で作業する作業者の聴力を把握するために、6ヶ月以内ごとに聴力検査を行うことになっています。その聴力検査の結果もぜひ把握してください。
    職場を離れたら、通勤時間や家ではできれば大きな音を聞かず、しっかり耳を休めましょう。

    9 難聴予防は定期的に聴力検査を

    加齢性難聴の予防には、まず自分の聴力を把握することが重要です。自分の聴力を理解した上で、いろいろな対策で進行を遅らせることは十分に可能です。

    一般的に、加齢による難聴は何年もかけてゆっくりと症状が進んで行きます。難聴者自身は、自分の聞こえが低下していることに気付くことがなかなか難しいのですが、聴力の衰えにはいくつかのサインがあります。

    • 電話で何度も同じことを聞き返す
    • テレビの音量が大きすぎると家族に言われる
    • レストランや騒々しい場所で周りの人との会話を聞き逃す

    このようなことはあれば、まず耳鼻咽喉科の医師に診察して、聴力検査をしてもらいましょう。

    また加齢性難聴の多くの場合、家族や友人、同僚が、本人より先に気づくことがよくあります。周りや家族の方に上のような症状があれば、ぜひ耳鼻咽喉科での聴力検査を促しましょう。

    9-1 早期発見の重要性

    難聴に気づいたら、早い段階で対処しましょう。

    耳の老化は誰にでも起こりうる自然なことです。しかし、「仕方がない」と思って放置することは良くありません。言葉を聞き取る能力は、使い続けて刺激を与え続けなければ衰えてきます。「まだ若い、まだなんとなく聞こえる」と思い対処しないまま時間が経ち、聞く力を一層低下させてしまうケースが多くあります。

    9-2 聴力検査のタイミングと頻度

     

    お仕事をされている方は、毎年の健康診断で聴力検査を受けてください。

    職場で一斉に行う職場検診だったり、病院での健康診断や人間ドックだったりしますね。健康診断では「所見あり」と判断されたら、耳鼻咽喉科で精密検査を受けましょう。

    精密検査を受けることで、もし難聴があるなら、その程度なのか、どの部位が原因なのか、また必要な対応について早期に指導を受けることができます。

    お仕事での健康診断を受ける機会がない方も、定期的に(年に1回)耳鼻咽喉科で聴力検査を受けることをおすすめします。
    耳鼻咽喉科では、会社の健診より精密な検査が行われます。聞く音の高さ(周波数)がより広く、職場健診では検査しない高い音(4000Hz以上)も検査されるので、より加齢性難聴を発見しやすいので効果的です。

    9-3 聴力検査の進行方法と検査項目

    聴力検査は簡単に受けられ、体の負担にもならない検査です。様々な種類の検査があり、どこで、何の目的で受けるのかで内容が変わります。

    ●健康健診で行う簡易の聴力検査は、静かな環境でヘッドフォンを装着し、「オージオメーター」という機械から出るいろいろな音を聞きます。音が聞こえてきたらボタンを押したりして、測定しているスタッフにお知らせします。所要時間は数分程度です。
    ●耳鼻咽喉科の検査は、症状によってもっと検査項目が多く、複数の機械を使う場合があります。それでも30分程度で終わる場合が多いでしょう。

    10 難聴の治療・対策

    加齢性難聴は現時点で医学的な治療が難しいのですが、万が一難聴と診断されても補聴器等の補助器具で聞こえを補うことで、聞こえづらさの改善が期待できます。

    補聴器は「お年寄りが使うもの」、「格好悪い」と敬遠されがちですが、今やスタイリッシュな補聴器や、より小型で目立ちにくい補聴器も販売されています。

    補聴器は、生活の質(QoL)を維持し、より「若々しく」過ごすためのツールだという認識が広がりつつあります。

    まとめ

    ●難聴は様々な種類があるが、加齢性難聴は予防可能
     加齢性難聴を予防する鍵は有毛細胞を守ること

    ●加齢性難聴の予防法
     予防法1 大きな音を避ける
     予防法2 大きな音を聞いた後は耳を休ませる
     予防法3 生活習慣病に気を付ける
     予防法4 食事に気を付ける
     予防法5 適度な運動をする
     予防法6 規則正しい生活とストレスに気を付ける

    ●難聴予防は、定期的に耳鼻咽喉科を受診して聴力検査を受けてください
    ●加齢性難聴の治療・対策は補聴器が役に立つ場合があります