「何となく聞こえてないみたい…、もしかしたら難聴?そのままにしておいても大丈夫?」そんな気持ちでこのページに辿り着いた人も多いのでは。でも、「耳鼻科に行くほどじゃない」と思っている人がほとんどのはずです。
何より大切なのは、まず、「難聴」について正しく知ること。ひとことで「難聴」といっても、種類はさまざま。『突発性難聴』のように治療に一刻を争うものから、日頃の心がけである程度予防ができるものもあり、症状や原因だけでなく、治療方法や対策も多岐に渡るからです。
ここでは、さまざまな種類の難聴について、1.耳の構造 2.聞こえ方の程度 3.ニュースなどでよく耳にする難聴 の3つのカテゴリーに分類した上で、それぞれの難聴について症状や原因をわかりやすく解説、さらに治療や改善策を丁寧にアドバイスしています。
ご自身やご家族の聞こえ方の状態やその対策について、ある程度把握することができます。ただし、難聴についての判断は、耳鼻科の専門医が診察によって行いますので、ご注意ください。
いろいろな難聴の種類とその違いを正しく理解して、なんとなく抱えていた疑問や不安を解消しましょう。そして、問題解決への一歩を踏み出しましょう。
目次
1 耳の構造によって分類される難聴の種類
最も一般的な分類方法になります。難聴が発生している、難聴の原因となっている耳の部位によって大別することができます。
1-1 伝音難聴
耳の構造のうち、外耳から中耳にかけての伝音器の障害によって発生する難聴です。
小さな音が聞こえにくい、大きな音でないと聞こえないといった症状が伝音難聴の特徴です。
中耳炎や鼓膜の損傷などから起こる場合が多く、手術や薬物療法などの医学的な治療により改善することも多いため、まずは耳鼻科の専門に相談し、治療を受けることが大切です。
伝音難聴を引き起こす原因には以下のようなものがあります。
■先天性奇形
生まれつきの耳の奇形(耳介奇形、外耳道閉鎖症、中耳奇形等)が原因で、その状態により聴力低下の程度は異なります。
■耳垢栓塞
外耳道に耳垢がたまってふさいでいることで起こり、耳閉塞感や耳鳴りを感じることがありますが、耳鼻科で耳掃除をしてもらうことで解決することがほとんどです。
■鼓膜穿孔
中耳炎や頭部等への衝撃により鼓膜に孔が空いた状態のことです。鼓膜が振動しにくくなるために、聞こえ方が悪くなります。
■急性中耳炎
風邪等による炎症が中耳に広がって起こります。発熱・耳痛・耳垂れを伴うこともあり、難聴の程度もさまざまです。小児と高齢者に多くみられます。
■滲出性中耳炎
急性中耳炎が悪化した場合に起こります。小児と高齢者に多く、耳閉塞感・自声強調・耳鳴りの症状もみられます。
■慢性中耳炎
急性中耳炎が悪化した場合に起こり、耳痛・耳鳴り・耳垂れがみられます。
■真珠腫性中耳炎
外耳道の壁や鼓膜に真珠のような白い塊ができる中耳炎で、臭いを伴う耳だれがみられ、中耳等を破壊しながら進行します。
■耳小骨離断
中耳炎や頭部等への衝撃により、耳小骨連鎖が途切れて起こります。伝音性難聴の中では最も高度な聴力低下を引き起こします。
■耳硬化症
アブミ骨底が固定され、動きが制限されることで起こります。両耳共に発生する場合が多く、難聴は徐々に進行します。耳鳴りを伴い、30~40歳代の女性に多く発症します。
1-2 感音難聴
耳の構造のうち、内耳や聴神経といった感音器の障害が原因となって生じる難聴です。
加齢による聴力の低下や、長時間騒音にさらされていたことで起こる難聴などが代表的です。
一般的に医学的な治療や手術による聴力の改善は困難だとされています。しかし、補聴器を装用することで、聞こえ方を改善することが可能です。
感音難聴を引き起こす原因には以下のようなものがあります。
■先天性感音性難聴
遺伝や妊娠時の母胎のウィルス感染等で起こります。高度~重度難聴が多く、両耳に難聴がある場合が多いのも特徴です。
■メニエール病
内耳の内リンパ液の異常増加により起こります。片耳で発生する場合が多く、耳閉塞感・耳鳴り・発作性のめまい・吐き気・中~低音域の聴力低下が多いという特徴があります。また、それらの症状がしばらく続いた後に回復し、また症状が生じる事を繰り返すことも大きな特徴です。
■薬物による難聴
ストレプトマイシン、カナマイシン、抗生物質等の投与により有毛細胞が障害されて起こります。両耳で起こる場合が多く、高音域から始まり低音域にまで及びます。めまいや耳鳴りを伴うこともあります。
■騒音性難聴
騒音の多い環境(工場など)に長時間さらされることにより、有毛細胞が障害されて起こります。中~高音域が悪化します。
■聴神経腫瘍
聴神経に腫瘍ができて起こります。言葉の聞き取りが著しく低下します。
1-3 混合性難聴
伝音難聴と感音難聴の両方の症状がみられる難聴です。
伝音難聴と感音難聴のどちらの傾向が強いかなど、症状に応じて医学的治療を行ったり補聴器を装用したりして聴力の改善を図ります。
出典:難聴について | Hear well Enjoy life. – 快聴で人生を楽しく 一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頚部外科学会
2 聞こえ方の程度によって分類される難聴
日本聴覚医学会では、聞こえ方の程度によって難聴を4つに区分しています。区分の基準は、聴力検査によって聞こえた音の大きさによります。
各聴力レベルの定義と日常生活における聞こえ方の状態、補聴器の必要性を説明しています。
2-1 軽度難聴 [聴力レベル25dB以上~40dB未満]
「小さな声や騒音下での会話の聞き間違いや聞き取り困難を自覚する。会議などでの聞き取り改善目的では、補聴器の適応となることもある。」と定義されます。
日常会話で聞き返すことや、小さな話し声やささやき声が聞き取りにくいケースがある状態です。聴力低下による聞き間違いや生返事による誤解、トラブル、仕事上での支障が起こる可能性があります。
2-3 中等度難聴 [聴力レベル40dB以上~70dB未満]
「普通の大きさの声の会話の聞き間違いや聞き取り困難を自覚する。補聴器の良い適応となる。」と定義されます。
テレビの音が大きすぎると注意される、話がしっかり聞き取れていないのにわかったふりをしてしまうこともたびたびある、という状態。コミュニケーションがうまくいかなくなることで、家族や周囲の人との関係に悪影響が及ぶ恐れがあります。
2-4 高度難聴 [聴力レベル70dB以上~90dB未満]
「非常に大きい声か補聴器を用いないと会話が聞こえない。しかし、聞こえても聞き取りには限界がある。」と定義されます。
電話の声が聞き取りにくい、銀行や役所、病院などで名前を呼ばれても聞き逃す、大きな声での会話なら聞き取れるといった状態。周囲との円滑なコミュニケーションが困難になるだけでなく、日常生活に支障を及ぼす恐れがあります。
2-5 重度難聴 [聴力レベル90dB以上]
「補聴器でも、聞き取れないことが多い。人工内耳の装用が考慮される。」と定義されます。
大きな声で正面から話しかけられても聞き取れないことが多い、目の前の電話の着信音が聞こえないといった状態。会話や着信音だけでなく、自動車のクラクションなどが聞こえなくなると、自分だけでなく周囲の人にも危険が及ぶ懸念があります。
出典:難聴(聴覚障害)の程度分類について|日本聴覚医学会難聴対策委員会
3 ニュースなどでよく耳にする難聴
これまで、耳の構造及び聞こえ方の程度という代表的な分類による難聴の種類を紹介しました。ここまでに紹介した難聴以外にも、テレビのニュースなどでよく耳にする名称の難聴もあります。
3-1 加齢性難聴・老人性難聴
年齢を重ねるにつれて聴力が低下していく加齢性難聴は、感音難聴の一種で、老人性難聴ともいわれます。
概要 | ・感音難聴の一種 ・年齢とともに聴力が低下する ・低下する時期や程度には個人差がある |
考えられる原因 | ・耳の中の蝸牛にある有毛細胞の劣化や減少によって発生する |
主な症状 | ・高音域から徐々に聞こえにくくなる ・左右の聴力が同じレベルで低下していく ・母音「あ、い、う、え、お」は比較的聞き取りやすいが、か行、さ行などの子音が聞き取りにくくなる ・ぼやけたり、割れたり、歪んだりした感じの音に聞こえることがある ・言葉の違いがわかりにくくなる、会話内容の認識に時間がかかる |
簡単なチェック方法 | ・テレビの音量が以前より大きくなった ・体温計や電子レンジなどの電子音が、聞こえにくくなった ・女性や子供の声が聞き取りにくい |
主な治療法と対策 | ・一般的には医学的な治療は困難と言われている ・自覚症状がある場合は、耳鼻科を受診するのがおすすめ ・補聴器を使用することで、聞き取りを改善できる可能性も |
3-2 突発性難聴
突発性難聴は感音難聴の一つです。感音難聴の多くは医学的な治療による聴力の回復は困難といわれていますが、突発性難聴の場合は早期に適切な治療を行うと聴力の回復が期待できます。
概要 | ・感音難聴の一種 ・前触れなく突然聴力が低下する |
考えられる原因 | ・不明とされている ・ウィルスの感染を原因とする説や、血流が妨げられ内耳に充分血液が行きわたらないことによる機能不全を原因とする説がある ・ストレスや過労、睡眠不足が引き金になるという考え方も |
主な症状 | ・特に前触れなく発症する ・徐々にではなく、突然聴力が低下する ・低下する周波数帯や程度には個人差がある ・いったん回復すれば、繰り返さないことがほとんど |
主な治療法と対策 | ・早期の治療と安静が重要 ・重度の場合は、入院して治療するケースも ・発症してからできるだけ早めに治療することで、治癒の確率が高まるとされる ・内服薬や点滴による治療が一般的で、主にステロイド剤を使用 ・血液の循環を促す薬や、高圧酸素療法を用いるケースも |
日本における突発性難聴の現状
日本国内の突発性難聴の患者数は年間約76,500人といわれています。そのうち元通りに回復するのはわずか3分の1というデータもあります。片耳の聴力を失ってしまう人も少なくありません。
一般的には40~60代に多く見られ、男女差はないようです。最近では、ミュージシャンや歌手が突発性難聴に悩んでいるというニュースも多く見受けられるように、現代人にとって無視できない危険な難聴だということができます。
出典:突発性難聴について | e-ヘルスネット(厚生労働省)
3-3 一側性難聴
一側性難聴は(Single Sided Deafness)とも呼ばれ、SSDと略されます。片方の耳が著しく、または完全に聞こえなくなる状態です。
概要 | ・片方の耳が著しく、または完全に聞こえなくなる状態 |
考えられる原因 | ・突発的な難聴 ・物理的な耳の損傷や聴覚神経の圧迫 ・感染症(ウィルスや細菌)を含む内耳の問題 ・はしか、おたふくかぜ、髄膜炎などの病気 |
主な症状 | ・音源の位置を特定することが困難になる ・複数人との会話での聞き逃しや聞き間違い |
主な治療法と対策 | ・治療は、難聴の症状や原因に応じて行われる ・対策としては、CROS補聴器が有効 |
CROS補聴器の有効活用
一側性難聴の場合、聞こえない方の耳から聞こえる音を良い方の耳に装用した補聴器に伝えることで聞き取りを改善できる場合があります。
聞こえない耳の方からの音を拾い、それを良い方の耳に伝える補聴器をCROS[クロス]補聴器といいます。CROS補聴器では、聞こえない方の耳からの音も聞くことができ、騒がしい部屋、移動中の車内、グループディスカッションなどの困難な環境で会話をしているときに特に役立ちます。
3-4 小児難聴
小児難聴は、生まれつきの場合であることが多く、生まれた時からの難聴は先天性難聴と呼ばれています。発生する割合は1,000人に1~2人といわれています。
概要 | ・子供の難聴 ・生まれつきの難聴は先天性難聴といわれる |
考えられる原因 | ・遺伝による原因 ・出産時や出産前後の病気 ・風疹や早産、ウィルス感染 |
小児難聴が疑われるサイン | ・小さな子供は意思表示ができないため、周囲がサインを見逃さないことが大切 ・大きな音がしても反応しない、音のする方向を見ない ・言葉をしゃべり始めるのが遅い |
主な対策 | ・何よりもまず、早期の発見が大切 ・発見が遅れると言語能力の発達が遅れてしまう恐れも |
新生児聴覚スクリーニング
言語の獲得やコミュニケーション能力は、生後2~3年で発達するため、この時期に耳からより多くの情報を取得することが大切です。難聴の発見が遅れると、言語能力の発達も遅れてしまうことになるので、早期のチェックが必要になります。
「新生児聴覚スクリーニング」は、生まれてから1ヶ月以内の新生児のための聴覚検査で、難聴を早期発見することを目的として実施されています。難聴を早期に発見できれば、治療や教育によって言語やコミュニケーション能力の獲得をサポートすることができます。
3-5 ヘッドホン難聴
ヘッドホンやイヤホンで長時間大音量の音楽を聴くことで起こるヘッドホン難聴は、特に若い世代で大きな問題になりつつあります。
概要 | ・感音難聴の一種 ・大音量で音楽などを長時間聞き続けることで起きる |
考えられる原因 | ・大音量で音楽を聞き続けることによる有毛細胞の損傷 |
リスク | ・WHOが提示した国際基準では、聴覚障害にならない安全な音のレベルの目安は、大人で音量80dB、子供は75dBをそれぞれ一週間に最大40時間としている ・音量の目安は、コンサート会場が110dB、地下鉄社内が100dB程度 ・音漏れするレベルの音量は100dBを超えている可能性がある ・ヘッドホンやイヤホンは音源が鼓膜に近く、音が減衰されにくいため、耳に負担がかかりやすい |
主な予防法と対策 | ・音量を下げたり、連続して聞かないように休憩をはさんだりする ・使用する時間を1日1時間未満にする ・周囲の騒音を低減する「ノイズキャンセリング機能」のついたヘッドホンやイヤホンを選ぶ ・リスクがないとされる適正音量は60dBとされる |
ヘッドホン難聴の現状
WHO(世界保健機関)は、音楽プレイヤーやスマートフォンを大音量で聞くことや、クラブやライブイベントなどで大音量にさらされることで、世界で10億人以上の若者(12~35歳)が難聴のリスクを背負っていると警鐘を鳴らしています。
WHOによると、全世界で4 億 6600 万人の人々が日常生活に支障をきたすほどの聴覚障障害を抱えており、そのうち 3400 万人が子どもです。2050年には9億人もの方々が聴覚障になる可能性があるとされています。
出典:Make Lisning Safe | WHO世界保健機関
3-6 語音弁別能の低下
聴力が低下すると、人によっては特定の周波数帯域での聞き取りが困難になる場合があります。
声は聞こえているのだけれど、言葉がしっかり聞き取れない、言っていることが理解できないといった現象は、語音弁別能(最高語音明瞭度)が低下していることが原因で発生します。
概要 | ・特定の周波数帯域での聞き取りが困難になる ・耳や脳で認識できない音声がある |
主な症状 | ・声は聞こえていても、言葉が聞き取れなかったり、言っていることが理解できなかったりする ・言葉や音声を区別することが難しくなる ・特に周波数の近い音声を区別することが困難になる |
言葉の聞き取りが難しいと感じる場合は、語音明瞭度検査を受けて、言葉を聞き取る能力がどの程度なのかを調べるようにしましょう。
4 不安に感じたら、まずは耳鼻科へ
ここでも紹介したように、難聴の種類によっては、治療に一刻を争うものもあるので注意が必要です。以下のような症状はある場合は、耳鼻科を受診するようにしてください。
- 耳に痛みがある
- 耳だれが出る
- 急に耳が聞こえなくなった。急激に聴力が低下した
- 耳鳴りがする
耳鼻科に行くことで、耳の病気の早期発見、治療だけでなく、さまざまな検査を受けることで、自分の聴力の状態を正確に把握することができます。
さらに、日常生活で聞きにくい音や困っている状況などを相談して的確なアドバイスを受けることもできるので、自分が取るべき行動が明確になります。
5 補聴器が有効な難聴
これまで説明したように、残念ながら医学的な治療が難しい難聴もあります。
特に、年齢を重ねることで聴力が低下する加齢性難聴の原因である損傷した有毛細胞を再生することは困難とされています。このような難聴には、補聴器の使用が有効です。
これまで紹介した難聴のうち、以下に挙げたものは、補聴器の装用によって改善が期待できるといわれています。
- 伝音難聴
耳に入ってくる音を補聴器が増幅してくれるので、単純に小さな音が聞こえにくいという状態を改善できる可能性があります - 加齢性難聴・老人性難聴
聞こえにくくなっている音域を増幅したり、会話の邪魔になる雑音だけを抑えたりと、聞こえ方に合わせてきめ細かく調整することができるので、ユーザーのニーズに合わせた対応が可能です
この他にも、補聴器によって聞こえ方の改善が見込まれる難聴があります。詳しいことは耳鼻科の専門医に相談するようにしましょう。
補聴器をつけることで聴力が完全に元に戻る訳ではありませんが、日常生活に欠かせないさまざまな音をしっかり聞き、家族や友人との会話を楽しむためには、聞こえにくい状態をそのままにせず、積極的に補聴器を活用することをおすすめします。
6 まとめ
- ひとことで難聴といっても分類の方法によっていろいろな種類がある
- 耳の構造による分類
- 聞こえ方の程度による分類
- それぞれの難聴について正しく理解することが大切
- 難聴によって治療方法や対策も違う
- 早急に治療が必要なものもあれば、医学的な治療が難しいものもある
- 難聴によっては、補聴器の活用が有効
- 特に加齢による難聴には、補聴器を装用することで改善が期待できる