聴力低下は、さまざまな要因によって引き起こされる一般的な健康問題です。
加齢や生活習慣、環境的な影響、さらには遺伝的な要素まで、聴力が低下する原因は多岐にわたります。
聴力の低下は、日常生活におけるコミュニケーションの障害や、社会的孤立を引き起こすこともあります。
そのため、早期に原因を特定し、適切な対応を取ることが重要です。
以下に、聴力低下を引き起こす主な原因を挙げ、各々の特徴や影響について見ていきます。
1 聴力低下の原因
聴力低下の原因には様々なものがあります。ここでは代表的なものをあげます。
1-1 加齢によるもの
加齢による難聴(高齢性難聴)は、年齢とともに聴力が低下する現象です。
通常は30歳以降に進行し始め、特に60歳以上の高齢者に多く見られます。
このタイプの難聴は、加齢に伴って内耳や聴覚神経が変化することによって引き起こされます。
加齢性難聴にはいくつかの特徴があり、以下の要素が影響を与えます。
1)内耳の変化
加齢により、内耳(耳の奥の部分)の「蝸牛」と呼ばれる部分にある「有毛細胞」が徐々に損傷します。有毛細胞は一度傷つくと再生しないので、数が減っていきます。
有毛細胞が減ると、その分、音をとらえる能力が減っていきます。通常は高い音を処理する細胞から減っていくので、高音域から聴力が低下します。
2) 聴覚神経の衰え
聴覚神経(聴神経)は、内耳から脳に音の信号を伝える役割を担っています。
加齢により、この神経の伝達機能が低下すると、音を効率的に処理できなくなることがあります。
3) 血流の減少
血管は、加齢とともに硬化します。内耳へ血液を送っている欠陥が硬化すると、血流が減少して内耳への栄養供給が不足することがあります。
この結果、内耳の細胞が健康を保てず、聴力が低下することがあります。
4) 音の識別能力の低下
加齢に伴い、特に高齢者は複雑な音や言葉を識別する能力が低下することがあります。
音が歪んで聞こえる、または会話が聞き取れないといった症状が見られることがありますが、これは脳が音を処理する能力の低下も一因です。
5) 進行性の性質
加齢性難聴は進行性であり、時間とともに徐々に聴力が低下するの場合がほとんどです。
初期段階では気づきにくい場合もありますが、日常生活に支障をきたすようになるまで進行することがあります。
1-2 職場などで長時間大きな音にさらされていたことによるもの(騒音性難聴)
工場や工事現場など、大きな音が鳴る職場で長時間働いていると、聴力が低下こともあります。これは「音響外傷」(音による損傷)というもので、「騒音性難聴」として知られています。
大きな音を長時間聞き続けることによって、有毛細胞が損傷を受けてしまうためです。一度死んでしまった有毛細胞は再生しないため、聴力の低下は永続的になります。
社会的にも問題になっており、騒音がする環境で働く人は、騒音をカットする耳せんを着けることを義務付けている会社も多くあります。
1-3 大きな音を長時間聞いていたことによるもの(ヘッドホン難聴、イヤホン難聴)
ヘッドホンやイヤホンで音楽などを長時間大音量で聴いていたりすると起こる症状です。こちらも騒音性難聴の一種でヘッドホン難聴、イヤホン難聴とも呼ばれます。
1-4 耳に耳垢が過剰にたまっていたり、異物が入っていたりする場合
耳に耳垢が過剰に溜まったり、異物が入ったりすることでも聴力が低下します。比較的一般的な問題であり、通常は治療が可能です。
耳鼻科で耳掃除をしてもらう、異物を取り除いてもらうだけで、聴力が元に戻ることもあります。
1-5 外耳の病気(耳あか、外耳炎など)
外耳とは、耳あなのことです。外耳炎は、耳あなで炎症が起こることで、細菌や真菌(カビ)、またはアレルギー反応などによって引き起こされます。
外耳道は音を伝える重要な部分であるため、この部分の炎症は音の伝達に影響を与えます。
外耳炎には以下の種類があります。
急性外耳炎(外耳道炎)
急激に炎症が起こり、痛みを伴う症状がおこることが多くあります。
通常、細菌感染が原因です。
慢性外耳炎
長期間にわたる炎症や感染が続き、耳のかゆみや痛みが繰り返し現れます。
真菌性外耳炎(カビによる外耳炎)
カビや真菌が耳道に感染することで起こり、耳あなが湿った状態が続くとよく発生します。
1-6 中耳の病気(急性中耳炎、滲出性中耳炎、慢性中耳炎など)
中耳とは、鼓膜の奥、内耳よりは手前側の部分です。耳小骨と呼ばれる小さな3つの骨が、鼓膜がとらえた音の振動を内耳に伝えています。
中耳炎には下記のような種類があります。
急性中耳炎
急性中耳炎は、中耳に急激な感染が起こり、炎症が生じる病気です。
通常、ウイルスや細菌が原因となります。
感染によって、鼓膜の内側の中耳腔に膿や液体がたまり、炎症が広がります。中耳腔内に膿や液体がたまると、音の振動が鼓膜から内耳に伝わりにくくなります。これが聴力低下の主な原因です。
特に子供に多く見られますが、大人にも発症することがあります。
滲出性中耳炎
滲出性中耳炎は、主に急性中耳炎が治癒した後、耳の中に液体(膿ではなく、透明な液体)が残る状態です。
この液体が中耳腔に残り、音の伝達を妨げることになります。
慢性的に中耳に液体がたまっている状態で、特に子供に多く見られます。
慢性中耳炎
慢性中耳炎は、中耳の炎症が長期間続き、繰り返し発症する病気です。
炎症によって、鼓膜や耳小骨に永続的な損傷が生じることがあります。
慢性中耳炎は、急性中耳炎が繰り返し発症したり、治療が不十分な場合に進行することがあります。
1-7 内耳の病気(突発性難聴、神経性難聴、騒音性難聴、メニエール病など)
内耳の病気は、音の伝達や平衡感覚に関わる部分に障害が生じることで、聴覚やバランスに問題が起こる病気です。
1) 突発性難聴
片耳または両耳の聴力が突然低下する病気です。
原因ははっきり分かっていないことが多いのですが、ウイルス感染や内耳の血流障害が関係すると考えられています。
症状: 突然の難聴、耳鳴り、耳の詰まり感、場合によってはめまいを伴う
2) 神経性難聴
聴覚神経や脳の聴覚中枢に問題があり、音が正しく認識されなくなる状態です。
加齢による変化(加齢性難聴)が代表例です。
症状: 高音域の音が聞こえにくい、会話の中で言葉が聞き取りづらい
3) 騒音性難聴
長期間、大きな音にさらされることで聴力が低下する疾病です。
耳を守る防音対策が不十分な環境で起こりやすいです。
症状: 特定の音域が聞こえにくくなる、耳鳴り
4) メニエール病
内耳のリンパ液の異常(内リンパ水腫)が原因とされ、主にめまいや耳鳴り、難聴を繰り返す病気です。
症状: 回転性めまい、耳鳴り、低音域の難聴、耳の閉塞感
1-8 脳の病気(聴神経腫瘍など)
聴神経腫瘍は、内耳から脳に情報を伝える聴神経にできる良性の腫瘍です。
腫瘍自体はゆっくりと成長しますが、大きくなると周囲の神経や脳幹を圧迫し、症状が進行します。
主な症状は片耳の難聴(徐々に聞こえなくなる場合が多い)・耳鳴り(特に片側のみ)・めまいや平衡感覚の異常・顔面のしびれや動きの異常(腫瘍が顔面神経に影響する場合)などです。
1-9 先天的なもの
先天的な聴力低下は、出生時から聴覚に障害がある状態を指します。
遺伝的要因や母体の妊娠中の影響など、さまざまな原因によって発生します。
様々な難聴の原因を見てきました。もしご自身が聴力低下を自覚しているようでしたら、このどれかが原因かもしれません。
どれが原因なのかは自己判断せず、必ず耳鼻咽喉科の医師の診断を受けてください。
2 聴力は基本的には回復できない
私たちが音を聞くことができるのは、耳の中にある「有毛細胞」という小さな細胞のおかげです。
この細胞は、音の振動を電気信号に変えて脳に伝える役割をしています。
しかし、この有毛細胞はとても繊細で、一度壊れてしまうと再生することができません。そのため、聴力を失った場合、元に戻すのはとても難しいのです。
しかし、例外的に聴力が回復する例もあります。
突発性難聴や一部の伝音性難聴(例:耳垢塞栓、中耳炎、耳小骨の異常など)は、原因を取り除くことで聴力の回復が可能です。
また、大きな音を聞いた後などに一過性の聴力低下が起こる場合がありますが、数日から数週間で聴力が回復する事もあります。
3 難聴を予防するために気をつけること
3-1 大音量でテレビを見たり音楽を聴いたりしない
長時間大音量にさらされると、内耳の有毛細胞にダメージを与える可能性があります。
特にイヤホンやヘッドホンを使用する場合、思いがけず大きな音になってしまっている場合があります。常に音量に気をつけて、音量を控えめに設定することが重要です。
3-2 騒音など、常時大きな音が出ている場所を避ける
工場や工事現場、音楽のコンサートやクラブなど、大きな音が常に流れているような騒音環境では、聴覚が一時的にダメージを受け、これが繰り返されると恒久的な難聴に繋がるリスクがあります。
騒がしい場所を避け、避けられない場合は耳せんやノイズキャンセリング機能付きヘッドホンを使用しましょう。
3-3 騒音下で働いている人は耳せんをする
工場や建設現場など騒音が避けられない職場では、耳を保護するための適切な対策が求められます。
業務用の遮音性の高い耳せんやイヤーマフを使用しましょう。
労働環境における安全基準(85デシベル以下が推奨)を確認し、職場の安全管理者に相談しましょう。
3-4 静かな場所で耳を休ませる時間を作る
騒音にさらされた後は、内耳の回復を促すために耳を休ませることが重要です。
騒音環境から離れ、30分以上静かな環境で過ごして耳を休ませましょう。
4 難聴の対策に補聴器も
難聴になると基本的には治りません。
ですが、補聴器などを装用することで、聞こえないという状況を改善させることができます。
補聴器は、難聴によって聞こえにくくなった音を増幅し、会話や生活音をより明瞭にします。これにより、日常生活やコミュニケーションの問題を大幅に軽減することができます。
自分に合った補聴器を見つけられる!主な4種類とその特徴を解説
まずは、難聴にならないことが一番大切ですので、日ごろの生活を見直してみましょう。そして、少しでも聴力に異変があると感じたら、迷わず耳鼻咽喉科を受診しましょう。