補聴器をつけると、「自分の声の聞こえ方が変わる」って本当?
初めて補聴器を装用した人の多くが最初に驚くのは、「自分の声への違和感」です。
例えば、「声がこもる」「声が響く」「自分の声をうるさく感じる」という症状が多いようです。
実は、このような現象は補聴器をつけていなくても発生する、自然な現象です。
試しに、両方の耳の穴を指などで塞いで話してみてください。声がこもったように聞こえませんか?
補聴器をつけるということは、耳の穴を塞ぐということなので、同じような現象が起こります。
一方で、「自分の声が響く・うるさく感じる」場合は、補聴器の音の処理方法が原因である可能性があります。
でも、安心してください!下記のような対策法で、これらの違和感を解消することができます。
この記事では、補聴器装用時の「自分の声への違和感」の2つの主な原因と、その解消法をわかりやく解説します。
補聴器を使う際に、自分の声が気になる人は、ぜひ参考にしてください。
目次
1 補聴器装用時に「自分の声への違和感」があるのは一般的な現象
補聴器をつけたとき、自分の声が普段と違うと感じるのは、耳の仕組みや補聴器の働き方による自然な現象です。この現象は補聴器だけでなく、ヘッドフォンやイヤフォン、耳栓などを使用した時にも似たようなことが起こります。
1.1 普段の自分の声の聞こえ方(補聴器装用しない場合)
私たちは普段、自分の声を2つの方法で聞いています。
第1のルートは「耳の外から耳の中へ」という経路です。口から外に音が出て、空気を振動させながら耳に届き、耳あなを通って耳の奥の鼓膜(振動を中耳に伝える薄い膜)に伝わります。鼓膜の振動は3つの小さな骨に伝わり、最終的に電気信号として脳へ伝わります。下の画像の「第1のルート」です。
第2のルートは、「体内から直接耳の中へ」という経路です。声を出すと喉の奥の声帯が振動しますが、この振動が肉体を通って直接3つの小さな骨に届き、脳に送られます。下の画像の「第2のルート」です。
この2つの聞こえ方が自然に混ざり合い、私たちは「自分の声」として認識しているのです。
自分の声を録音して聞いてみたことはありますか?「普段の自分の声と違う」と感じませんでしたか?
これは、録音した声は「第1のルート」の声だけだからです。第2のルートからの声が混ざっていないので、普段と違って聞こえるのです。
1.2 補聴器を装用した場合の自分の声の聞こえ方
補聴器を装用すると普段と聞こえ方が変わるのは、2つのルートからの音バランスが変わるからです。
まず第1のルートは、補聴器によって大きな音になります。
口から外に出た声は補聴器にとらえられて、補聴器によって増幅され、いつもより大きくなります。
そして第2のルートも変わります。
補聴器が耳あなの一部を塞ぐことで、通常顔や頭の骨を通って外に逃げる音が内側にこもり、3つの小さな骨により大きく届くのです。
このように、2つのルートから伝わる声が、それぞれ普段と違うバランスになるため、「自分の声が普段と違う」という違和感が発生します。
この「違和感」は、よく「自分の声がこもる」「響く・うるさく感じる」というように表現されます。
2 補聴器の「自分の声」にまつわる主な2つの問題とその解消方法
なぜ違和感が起こるのかわかったところで、違和感の解消方法をご紹介します。
2.1 「自分の声がこもる」場合の原因と対処法
補聴器を装用すると「自分の声が耳の中でこもって聞こえる」という場合は、第2のルートが原因になっている場合が多くあります。補聴器を装用することで自分の声が外に放射されずに耳の中に戻って来るので、こもり感が生じるのです。
詳しくは1章の「1.2 補聴器装用する場合の自分の声の聞こえ方」をご確認ください。
対処法① オープン耳せんやベント付きの器種を使う
「オープン耳せん」と「ベント」、どちらも補聴器本体や耳せんに「通気用の穴がついている」ということです。この通気穴があることで、耳の中の空気の振動を外に逃がす事ができ、音のこもり感を軽減させることができます。
・補聴器の「ベント」とは、補聴器本体に通気穴がついているものです。イヤモールドという耳せんにもベントがついているものがあります。
耳せんは簡単に違う種類に取り替えることができます。ベントは、補聴器本体に掘られているので、大きくできる場合とできない場合があります。
どちらも、使用している補聴器や耳の形などで変わってきますので、必ず補聴器販売店に相談してください。
対処法②「オープンフィッティング」で補聴器を調整する
補聴器と耳の間に隙間があると、ハウリングや様々な不具合が起きやすいため、近年までは「補聴器と耳の間の隙間を完全に塞ぐ」という方法がメインでした。ですがこの方法は、こもり感が強く出てしまいます。
最近は、補聴器を「オープンフィッティング」で調整し、こもり感を軽減させる方法も使われています。
「オープンフィッティング」とは、耳の穴を完全に塞がないで行う調整方法です。通気用の穴が開いた耳せんなどを使うことで、音の反響を軽減することができ、こもり感が改善することがあります。
引用:【よくわかる補聴器選び 2024年版 聞こえにくと思ったらまずは手にとってほしい本】八重洲出版
注意点:オープンフィッティングは軽度難聴の人や高音域が聞こえない人に向いている調整方法です。全ての人に有効ではありませんので、必ず補聴器販売店に相談し、適切な対処をしてもらいましょう。
対処法③ 時間をかけて慣れる
補聴器を装用すると、こもり感だけでなく、補聴器からの音全体に違和感を感じるものです。
脳は長らく「音が少ない」状態に慣れていました。その状態から、補聴器を使い始めて急に「音が増えた」状態になると、「いきなりうるさくなった!」と違和感を感じてしまいます。(実は「増えた」わけではなく、「元に戻った」のですが)
ですがしばらく補聴器を使い続けると、脳が音が増えた状態に慣れて、違和感を感じなくなっていきます。
こもり感も、同じです。少し違和感を感じても、補聴器を使い続けていれば時間とともに慣れる場合が多いようです。
違和感がするから、と補聴器を諦めてしまうのではなく、新しい聞こえ方を楽しみながら継続的に補聴器を装用することで、補聴器の音にもこもり感にも、いつの間にか慣れることができるでしょう。
2.2 「自分の声が響く」「自分の声がうるさく感じる」場合の原因と対処法
この違和感の多くは、第1のルートに起因します。つまり、口から外に出て、補聴器にとらえられるルートです。
多くの人は、少しずつ聞こえ方が変わっていき、自分でも気づかないうちに音が聞こえなくなっていきます。すると、自分でも気づかないうちに、だんだん大きな声で話すようになるのです。
補聴器を使い始めて音がよく聞こえるようになったのに、これまでと同じ大きさの声で話してしまうと、自分の声が大きく感じます。これが「自分の声がうるさく感じる」大きな原因です。
また、耳に装着する補聴器は、自分の口に近い距離にあります(約10cm)。そのため、近い距離にある口から発せられた音を、補聴器は他の音よりもよく捉えてしまい、またそれを増幅して耳に届けます。
この2つの原因によって、自分の声が「響く」「うるさい」と感じる現象が起こります。
対処法①:補聴器の機能を使う
自分の声の響き感を解消するために、補聴器に搭載されている機能もあります。例えば、シグニア補聴器では「OVP(Own Voice Processing)」という機能です。
この機能は、周りの音は大きくしますが、自分の声を大きくしないでいてくれます。
▸OVP機能の働き:
①まずは補聴器に自分の声を覚えさせる
②補聴器は、覚えた声とそれ以外の音を区別して処理する
③自分の声は大きくならず、それ以外の音は大きく聞こえる
OVP機能について、詳しくはこの動画をご覧ください。
対処法②:話し方を調整する
これまでは音が良く聞こえなかったので、自分でしゃべる時も無意識のうちに声を大きくしていたでしょう。ですが、今は補聴器がありますから、自分の声をうるさく感じない程度に、自分の声の大きさを控えて話してみてください。(もちろん、会話相手が聞こえる程度の声の大きさにします。)
補聴器のマイク(音を拾う場所)は、口から約10cmと近い位置にあることも意識し、不必要に大きな声にならないように、感覚を調整してみてください。
普通の大きさの声で話すことを意識すれば、自分の声が増幅されていても、以前ほど大きく感じず、違和感を軽減することができます。
対処法③:時間をかけて慣れる
「自分の声がこもる」場合と同じように、ある程度の期間補聴器を使い続けると、いつの間にか慣れて違和感を感じなくなる人が多くいます。新しい聞こえ方を楽しみながら継続的に補聴器を装用してみてください。
しかしこの点は個人差も大きいので、補聴器のプロにしっかり相談しましょう。
まとめ
補聴器装用時の自分の声に違和感を覚えるのは一般的な現象です。しかし、この現象には適切な調整方法や解消策があります。
どの方法を選ぶとしても、まずは補聴器販売店に相談しましょう。
補聴器は一人ひとりの聴力に合わせて調整することが大切です。違和感や音の受け止めに迷ったら、必ず補聴器販売店にご相談ください。専門家と一緒に自分に合った対処をして、楽に補聴器を使えるようにしていきましょう。
自分の声だけでなく、補聴器から聞こえる音全般が「うるさい」と感じる原因やその対処法については、こちらの記事もご確認ください。