目次
1 難聴の原因は音楽?
1-1 若い人にも急増!音楽が原因で難聴に
スマートフォンやワイヤレスイヤホン・ヘッドホンの普及により、外出時などさまざまな場所で気軽に音楽や動画を楽しむ人が増えてきました。しかしその一方、イヤホンやヘッドホンを長時間・大音量で使用することによる若者の難聴が増えています。
耳の中の器官、内耳には「有毛細胞」という音を感じる細胞がありますが、この有毛細胞は大きな音や長時間音にさらされると傷つき、壊れてしまいます。損傷した有毛細胞は音を感じにくくなり、やがて難聴を引き起こします。
詳しくはこちら:難聴の種類別特徴や症状。原因・治療・対策までわかりやすく解説(きこえナビ)
1-2 WHOや厚生労働省も警鐘を鳴らす騒音性難聴
WHO(世界保健機関)の発表によると、音楽プレイヤーやスマートフォンを危険な音量で使用したり、クラブやライブイベントなどで大音量に長時間さらされると聴覚障害になる恐れがあり、世界の12〜35歳の若い世代の半数近い約11億人が難聴になるリスクがあると警鐘を鳴らしています。
また、厚生労働省でもいわゆる「ヘッドホン難聴」について、ポスターやリーフレットなどで注意を呼びかけています。
ヘッドホン(イヤホン)難聴 – e-健康づくりネット(厚生労働省)
1-3 難聴になるとどうなる?意外と知らない難聴のリスク
では、難聴になったら私たちの生活にどんな影響があるのでしょうか?難聴になると「音が聞こえにくい」という事以外にも、さまざまな影響が出てくるおそれがあります。
コミュニケーションへの影響
- 意思疎通の困難
- 会話が聞き取りにくくなることで、他者とのコミュニケーションが難しくなり、誤解や不満が生じる可能性があります。
- 職場や学業での支障
- 職場や学校での指示や会話が正確に理解できなくなることで、効率や成果に影響を及ぼす可能性があります。
精神面への影響
- ストレスと不安
- 聞こえないことが日常のストレスとなり、不安感を引き起こします。
- うつ病のリスク
- 難聴が進行し、社会的な孤立が深まると、抑うつ状態になる可能性が高まります。
安全面へのリスク
- 家電製品のアラーム音や生活音が聞こえにくくなり、鍋を火にかけっぱなしにしていても気づかないなど危険な場面も考えられます。
- 外出時に車やバイクのエンジン音やクラクション、自転車が近付いてくる音などに気づけず事故の危険に遭遇する可能性もあります。
- 災害時の地域放送や館内・車内放送などが聞こえにくいと、何が起こっているのか状況を把握できなかったり避難指示などを聞き漏らしてしまう可能性があります。
経済的リスク
難聴の治療にかかる費用や補聴器の購入費用、場合によっては難聴による職業の選択肢の制限など、経済的な負担が増えることがあります。
難聴についての米国の調査では、難聴者の世帯収入が健聴者と比較して減少していることが報告されています。
認知症リスク
難聴によりコミュニケーションや会話が減るなど、外からの情報が入ってこない状態が長く続くと、脳への刺激が減少し、認知機能が低下、さらには認知症やうつに繋がるという可能性があります。
世界的な医学雑誌(2024,Lancet)の発表によると、「予防可能な要因の中で、難聴は認知症の最も大きな危険因子」として指摘されています。また最近のアメリカの研究では、より難聴度合いが高い人ほど認知症になるリスクが高いという結果が報告されました。健聴者に比べ高度難聴者では約5倍の認知症リスクがあるとされています。
出典:THE LANCET
2 音楽をやっていると難聴になる?
2-1 音楽を聞いたり演奏しただけで難聴になるの?
音楽鑑賞や演奏が趣味の方も多いかと思いますが、ただ音楽を聞いたり演奏するだけで必ず難聴になるわけではありません。ただし、大音量で音楽を長時間聞いたり、適切な耳の保護をせずに演奏したりすると、難聴のリスクが高まることがあります。
楽器にもよりますが、特にドラムなどの打楽器やトランペット、サックスなどは最大音量が100~130dBにもなるため、耳栓やイヤープロテクターなど演奏者の耳を保護するツールを活用しましょう。
2-2 意外に多いミュージシャンの難聴
大きな音にさらされる機会が多いミュージシャンは、難聴リスクが高い職業とも言えます。しかし、難聴になってもそれを克服しながら活動しているミュージシャンも数多くいらっしゃいます。
難聴のミュージシャン
- クリス・マーティン(コールド・プレイ)
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ロンドン出身の人気ロックバンド「コールド・プレイ」のボーカル。2012年に耳鳴りを公表、現在はイヤープロテクターを使用しながら音楽活動を続けている
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- ピーター・タウンゼント(ザ・フー)
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ビートルズ、ローリング・ストーンズと並んで、イギリス3大ロックバンドに挙げられる「ザ・フー」のギタリスト。長年スタジオでヘッドホンを使用したことで難聴になり、現在は補聴器を使用し、レコーディング中に休憩を入れるなどして音楽活動を継続。iPodユーザーにも難聴について警鐘を鳴らすメッセージを発信している。
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難聴のあるミュージシャン |クリス・マーティン、ピーター・タウンゼント
- 日野 皓正(ひのてるまさ ジャズ・トランぺッター)
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ジャズの名門レーベル「ブルーノート」日本人初の契約アーティストで、1960~70年代に“ヒノテル”ブームで若者たちから絶大な支持を受けたジャズ・トランぺッター。50代頃より難聴を自覚し、現在は補聴器を使用しながらライブ活動を精力的に行っている。
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3 自分が難聴かどうか簡単に知る方法は?
3-1 「きこえのチェック」で簡単セルフチェック
聴力の低下は自覚しにくいため、自分の聞こえ方を客観的に見ることができる設問式の聞こえのチェックを活用する方法があります。いくつかの設問に「はい」「いいえ」で答えることで、聴力の目安を知ることができるものです。
補聴器専門店グループ「ブルームヒアリング」のHPでは、聞こえにくいご本人向けだけでなく、そのご家族も一緒に確認できるチェックリストが用意されています。
3-2 オンラインや無料アプリを使った聴力測定
オンラインで聴力をチェックしたり、スマートフォンで簡単に聞こえ方をチェックすることができる無料アプリもたくさん登場しています。
補聴器メーカー「ワイデックス」のHPではオンラインで聞こえをチェックすることができます。ヘッドフォンやイヤフォンを用意して、静かな場所で実施してください。
3-3 耳鼻咽喉科で精密な聴力検査を受ける
上でご紹介したのは、あくまでも聞こえの目安を測る簡易的なものですが、より詳しく自分の聞こえ方を知りたい場合は耳鼻咽喉科での受診をおすすめします。耳鼻咽喉科には聴力を測るための専門的な設備もあり、より精密な検査と正確な診断をしてもらうことができます。
聴力検査結果の見方がわかる!「標準純音聴力検査」を詳しく解説(きこえナビ)
4 毎日の生活で実践できる!難聴を予防する3つの方法
4-1 イヤホンで音楽を聞くときの音量を抑える
- 音楽を聴く際は、音量を60%以下に設定する。
- iPhoneなどのスマートフォンで、設定した音量を超える音を低減させる機能を活用する。
(WHOが推奨する限度は大人は80dB以下、子供は75dB以下で1週間に最大40時間とされています)
4-2 イヤホン・耳せんの種類を選ぶ
ノイズキャンセリング機能のあるイヤホンを使用すると、大音量にしなくても快適に聴けます。また、コンサートやライブ専用の耳せんを使うことで、大音量の環境から耳を守ることができます。
4-3 耳を休ませる
音楽を聞くときは1時間ごとに10分ほどの休憩をとることで、耳の負担を軽減します。
5 もしかして難聴かも?聞こえにくくなった場合の対処法
5-1 「聞こえにくい」と思ったらすぐに耳鼻科へ
難聴の可能性がある場合や、自分の聞こえ方について気になることがある場合、耳鼻咽喉科の受診をおすすめします。専門的な診察やより精密な検査をすることで、正確な診断をしてもらうことができます。
症状によっては一刻も早い治療、対応が必要な場合もあるので、できるだけ早く耳鼻咽喉科の診察を受けるようにしましょう。
詳しくはこちら:難聴かもと思ったら耳鼻科に行くべき3つの理由。治療法や対策も(きこえナビ)
5-2 難聴でも音楽は楽しめる!最新サポートツール
補聴器
最新の補聴器は会話だけでなく「音楽を楽しむための機能」が更に進化。補聴器本体に音楽をより聞きやすくするモード(プログラム)を設定できたり、中継機器を使ってテレビやステレオと補聴器を無線でつなぎ、音楽を直接補聴器に届けることができます。また、Bluetooth搭載の補聴器ならスマートフォンと直接無線でつながるため中継器も不要。いつでもどこでもスマートフォンで音楽を楽しむことができます。
価格帯(補聴器本体・片耳):50,000円~500,000円
価格帯(中継器):20,000円~200,000円
集音器
テレビやスマートフォンの音だけを大きく聞きやすくするだけなら、補聴器よりもっと手軽な「集音器」も色々な商品が販売されています。形も据え置き式のスピーカータイプやネックストラップのような形状のもの、イヤホンタイプなど様々。用途に合わせてお選びいただけます。
価格帯:3,000円~30,000円
詳しくはこちら:補聴器集音器の違いとは おすすめの人・購入時のポイントも紹介(きこえナビ)
スマートフォンの聴覚サポートアプリ
最近では聞こえ方をサポートしてくれるスマホアプリも登場。イヤホンを利用して主に周囲の音を強調して聞き取りやすくしてくれます。簡易的な聴覚サポートなので、シチュエーションに応じて活用するのがいいかもしれません。
価格帯:無料~APP内課金
補聴機能付きイヤホン・ヘッドホン
音楽を楽しむためのイヤホンやヘッドホンにも、補聴機能が付いた商品が登場しています。ノイズキャンセリングと外音取り込み機能を搭載し、周囲の環境音を増幅しつつ音楽も楽しめます。最近では簡易的に聴力を測ることで、聞こえ方に合わせて音量調節できるものも登場しています。
価格帯:10,000円~100,000円
まとめ
- スマホやワイヤレスイヤホンの普及により、若者の難聴が増加。長時間・大音量での使用が有毛細胞を傷つけ、難聴を引き起こす。
- WHOによると、世界で12~35歳の約11億人が難聴リスクがあるとしている。厚生労働省も「ヘッドホン難聴」に注意を呼びかけ。
- コミュニケーション困難、ストレスなどの精神面、危険察知などの安全面、治療費や補聴器購入費用などの経済面、認知症リスクなど、難聴にはさまざまなリスクがある。
- 音楽鑑賞や演奏で必ずしも難聴になるわけではないが、大音量や耳の保護不足は難聴になるリスクを高める。
- 難聴を公表して活動しているミュージシャンも多くいる。
- 難聴かどうかを知る方法は、設問式セルフチェック、オンライン・アプリでの聴力測定、専門医での検査など。
- 音楽での難聴を予防する方法は、音量を抑えて、適切なイヤホンや耳せんを選び、適度に耳を休ませることが大切。
- もし難聴になってしまったら、出来るだけ早く耳鼻咽喉科を受診することが必要。
- 難聴になっても、補聴器や補聴機能付きイヤホンなど、さまざまな最新ツールを使って音楽を楽しむことができる。